129.訓練
「ふぁ〜。」
目が覚めた早々に大きなあくびをしてしまいました。まだ体は思うように動きません。首は左右に動くようになりました。
「ナヲさん、起こしてしまいました?身体の具合はどうですか?」
「エ・・ウオさん?」
「奥様が正次朗さんの退院に付き添って家に戻られたので私が代わりに伺いました。」
エツ子さんはベットサイドの椅子に座っているようです。
「そ・・あんれすね。あいあとうおあいまう。」
「ナヲさんも正次朗さんもすごいですね。試合で優勝と準優勝だなんて。ところでナヲさん、見えます?眼鏡かけます?」
私が頷くとエツ子さんは
「はいはい。」
と言いながら眼鏡をかけてくれました。
首をゆっくり動かして辺りを見ると個室の病室に大きくて立派な赤い薔薇が3本シンプルな白い花瓶に生けられています。
「立派なお花でしょ。さっきあきちゃんからの使いの方がいらっしゃってお見舞いにと、届けてくださったんです。こんなに立派なお花、初めて見ました。特別に作られたものなんでしょうね。」
エツ子さんはまじまじと薔薇を観察しています。その時
トントン
「はーい。」
エツ子さんがドアを開ける音が聞こえます。
「はじめまして。私は昨日、ナヲさんと試合をさせて頂きました帝国騎士団に所属しております。本日退院することになりましたのでご挨拶をと思いました伺いました。」
「お待ちください。」
エツ子さんがやってきて私にお会いしますか?と尋ねたので、頷くと、わかりましたと扉に戻りました。大川さんが木刀を調整してくださったおかげで、兄と何とか戦えました。このような状態ですが、改めてお礼が言いたかったので、お会いする事にしたんです。
「こちらです。ナヲさんは今体が麻痺していらっしゃるので、お話されるのも少し難しい状況なんです。」
とエツ子さんが説明すると、
「承知しました。ありがとうございます。」
大川さんは丁寧にお辞儀をします。そして私の元にきて、
「昨日は素晴らしい試合を見せていただき感動しました。私自身たくさん学ばせて頂きました。神力切れによる全身麻痺ですかね?」
と大川さんの質問に頷くと、
「僕も以前小南さんと同じ状況になり、3日ほど入院しました。大変な時にお邪魔して申し訳ありませんでした。」
大川さんは申し訳無さそうに頭を下げました。
木刀のお陰で戦うことが出来たことをお礼しなくてはと、
「おくとお、あーいあとう。」
伝わるか分かりませんがお礼を言うと、
「木刀?あーいあとう。あーいあとう。ありがとう。あぁ、どういたしまして。もし、武器や防具の相談があれば連絡してください。相談に乗りますよ。」
と、ポケットから手帳を出し、何か書いてページをちぎりエツ子さんに渡して、
「ではこれで、失礼します。」
と言って大川さんは扉を出ました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。




