119.訓練
兄が会場を出た後、救護班の方が兄の対戦相手の元に駆け寄りましたが、対戦相手は自分で立ち上がり、救護班の人たちと会場を出ました。
「ふう。」
隣に兄が座り水筒のお茶を一口飲みました。
「流石、兄さん、神力も使わず相手を倒すなんて。」
「決勝まで神力を温存しないといけないからね。あ。次の試合は優勝候補の大川さんだ。」
大川さんが試合会場に現れると、私たちと反対側の客席に騎士団の制服を着た男性が20名くらい入ってきて、一礼して着席しました。
「応援に来たんだろうね。あっ、母さんが、父さんの仕事が終わったら一緒に見に来るって。お弁当持って来るって言ってたから、稲荷寿司リクエストしておいた。甘くて酸味があるから疲れてる時にぴったりだろ。」
「そうですね。あっそろそろ始まるみたいですよ。」
大川さんの相手は、大川さんと同じく木刀を使う様です。審判のはじめの声と共に大川さんが正眼の構えから突きを繰り出すと、相手はその木刀を払いそのまま剣道の面を打つ様に飛び込みました。その瞬間相手の木刀に神力が宿りましたが、大川さんはその瞬間神力を使い身体能力を上げ、その木刀を掴み相手を蹴り上げました。一進一退の攻防に目が離せません。大川さんも相手の選手も神力の使い方が見事で、打ち込む瞬間や防御の瞬間だけに神力を使っているようです。神力は使い果たすと回復するまで(使い方によってや、個人差はありますが)最低でも数時間〜数日かかります。今日は試合と試合の間隔が狭いため、優勝を目指すなら続けて3試合することを考えて、神力を使わねばならないので彼らの試合はとても勉強になります。おそらく大川さんの対戦相手もどこか地方の騎士団の方でしょう。彼らの鍛えられた筋肉は日頃の鍛錬の壮絶さを物語っています。
20分を少し過ぎた時、大川さんの蹴りを受けた相手選手が体制を崩して、その隙をついた大川さんが袈裟斬りを決めました。倒れた相手選手は10カウント内に立ち上がれずに大川さんが勝ちました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。




