第4話 デートのお誘い
『そんな一樹君に朗報よ。明日の土曜日、お昼から一緒に遊びに行きましょう』
「いや……なんで直接言わないんですか」
スマホの画面に表示された文字を読み上げて、僕は訝しげに返す。
「そんなの恥ずかしいからに決まってるじゃない。それとも一樹君は、私が羞恥に頬を染めながら、あなたをデートに誘う展開がお好みだったのかしら?」
綾乃部長は羞恥に頬を染めるどころか堂々とした態度で聞き返してくる。
好みじゃないかそうじゃないかでいえば前者だけど。
「それで。返事ははいなの? イエスなの?」
「選択の余地なしじゃないですか!」
「土曜日に、私からのお誘いを断ってまでしたいことがあるの?」
「……実は髪を切りに行こうと思ってたんですけど」
「それと、部誌の完成とどっちが大切なの?」
「そこは私と、じゃないんですね」
「あくまでこれは照れ隠しよ」
「それ言っちゃ隠せてないですよね⁉」
「そーれーで? 返事はどうなの? ダメなら別の日に誘うけれど」
焦れ切った様子で今度は詰め寄ってくる綾乃部長。
断っても別の日に誘うなら、結局僕に逃げ場はないってことだろう。
まあ、どっちにしろ彼女の事が好きな僕に、断る選択肢なんてものはなかった。
綾乃部長が恋愛小説のネタ探しのためと銘打っているとはいえ、好きな女の子からのデートの誘いなんて、断る理由が見当たらない。
「……分かりました。行き先はどうするんですか?」
「それは後で決めるわ。家に帰ってお風呂に入って、一樹君がお風呂上がりの私を想像して、それからでも遅くはないから」
「お風呂上がりの部長を想像するってところだけ訂正させてください」
「え……お風呂に入ってる私を想像してるの? さすがにちょっと、恥ずかしいのだけれど」
「とりあえず、帰ってから決めるんですね」
僕がスルーしたことで一瞬むすっとした顔を作った部長だったけれど、すぐに無表情に戻り、
「そういうこと。また夜に連絡するから、寝ちゃダメよ」
手にしたスマホを顔の横で振りながら、アイドルさながらのウインクをしてみせた。
はい世界遺産。写真に収められないのが世界の見込み損失だ。
「分かりました。ご飯とか早めに済ませときますね」
僕が内心ひゃっほうと歓喜しながらそう言うと、綾乃部長は満足げに頷いた。