表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前線  作者: 御鎌倉
4/7

来る時

戦闘

延々と続く、枯れた草地と冷たい灰色の金属類。


ヘリの機内と外。すべてが違っているだろう。


かつてより黙り込む我々と騒ぎ出す共和国市民、

なにもここだけではない。国全体で我々の軍靴や車両のエンジン、砲撃の音が騒がしい。


ここは異国の空。高度100m以下のいずれか。


輸送の重要拠点である民間空港を占領、空挺堡を構築。ゆくゆくは地上軍と合流を果たす。それが目的である。


輸送網の重要拠点を抑えることで、我が軍の行動を円滑にする一方、兵站に影響を及ぼし、作戦行動や増援の

展開を行えなくするのだ。


聞き慣れない専門用語が聞こえた。どうやら接敵の

無線らしい。それは飛行場の近くであることを

示唆した。


再度眺望する。

窓に映るのは、攻撃ヘリが撃破したであろう車両が

火元の煙と、枯草色の地面と時たま見える建物。


エンジンの音が轟々と鳴り響く機内では、

ヘッドカメラの電源を入れる者、装備を確認するもの

など多岐に及ぶ中、分隊長が声を発した。


「訓練通り動くこと!そうすれば大丈夫だ!では、

武運を!」


「はっ!」


不意に肩を掴まれた。


「生きて帰ろう!」


オーリャの声で、少し緊張が和らぐ。


「あぁ!」


私達が機内で声をかけ合う一方で、戦闘ヘリの

Ka-52やMi-24が先陣をきって突入。空にたなびく

黒の帯、その合間を縫って、我々も地対空ミサイルを

避けるためのフレアを撒きながら突入する。


我々の番はいつだろうか。戦闘ヘリの制圧任務が終わらない中を、今か今かと待ちに待って、上空を旋回する中で、拳を強く握りしめながらその様子を窓越しに見る。


「目標視認、装甲車!管制塔近くの植え込みに隠れている!これより攻撃する!」


「MANPADSの回避に成功、管制塔近くだ!」


ヘリの無線機から漏れる通信内容を頼りに、現場の様子が脳内に映し出される。


それは想像するだけでも、ただただ頼もしい。


「被弾!操縦不…ザーッ…」


都合のいいものばかり聞けるなんてそうは問屋が卸さないようだ。死の恐怖が隣に座る。


飛行場から少しだけ離れたところに作られた、

敵か味方かわからない、墓標が既に何個か作られて

いた。


ふと周りを見ると先程とは打って変わって、皆が口を真一文字にして喋らないでいた。


そんな我々を安全に送り届けるべく、戦闘区域で損害を出しながらもMANPADSの攻撃を引きつけ、敵を

一つ一つ、つぶしにかかる。


「私達が先兵だ!いくぞっ!」


一気に高度が下がった。まさに強襲だ。

滑走路へ滑り込むようにして突入する。


「クルバノフ!扉開けろ!」


「はっ!」


神様、ご加護を!


一番乗りの栄誉と緊張と共に、異国の地を踏んだ。


私が降りると、それに続くように味方が降りていく。


「行け行け行け行け!」


一心不乱に5mほどを屈んで走ってしゃがんで、

AK-74M(以下、小銃)を構える。


一通り小銃を確認し、安全装置を解除の後、

戦闘準備完了をコッキングの音で周囲に宣言した。


味方も伏せたり、しゃがんだりするなどして、

ヘリを円状に囲む。


「LZ確保!これより管制塔に向けて前進する!」


周りでも、続々とヘリボーンを行っている。


すでに多くの味方が降り立っているようで、

従軍画家の類がいれば、十分絵になったであろう。


それほどの迫力だ。それほどの戦力と練度、そして

気迫をもって、異国の奥深くに、楔を打ち込んだのだ。


横隊に、他の分隊員と横の距離を5mほど開けて

前進する。視界のいずれかにも物体が動くなどして

生まれる違和感はない。


狙撃手がいるなら、狙うにもってこいな状況だが、それを理解しつつ、恐れずにただ走る。


小屋の手前10mまで来た。機動班と火力支援班に分かれ、火力支援班は機動班の右側に展開した。


少しばかりの緩坂を駆け上がると、伏せるよう、

分隊長から指示があった。


「機動班は前進、火力支援班は稜線手前で援護!」


左から順に、副分隊長と、私とは突撃準備を

整える。


緊張により、鼓動が更に高まり、小銃を握る手の力も強くなり、今にもヒビを入れんばかりである。


今から敵の射線かもしれない場所に生身一つで入るのだ。


訓練では慣れたが、実戦だ。死が潜んで、我々の首を

その鋭利な鎌で刈り取ろうと潜んでいるのだ。

しかし、命令の下では絶対服従だ。ただ其の時を待つ。


「煙幕展開!」


発煙弾がここから小屋での間に投げられ、

煙幕が展開される。


いよいよか…!


「機動班!」


足に力を入れる。


「前へっ!!!」


蹴り上げる。敵の射界に身をさらし、私は小屋の正面を、副分隊長とは6m離れた位置で私の両側面を

ひたすらに走っている。


もう少しで、もう少しで着く…!


眼の前の景色…空港に併設されてる建物は、眼の前の小屋に段々と視界を奪われ、やがて茶色い壁に

タッチした。


撃たれずに、たどり着けたのだ。


副分隊長も、も着いて、私達は射線を確保した。

それを見た残りの分隊員達はこれまた走って小屋に

たどり着いた。


真っ先に分隊長が顔を出す。


「第1分隊、前へっ!」の声で横隊で、先程と同じように前進を開始する。


右手には小隊長以下3名の小隊本部と、第2、3分隊が見えた。


いずれも抵抗を受けずに着々と前進している。


ここまで来て初めてコンクリートを踏んだ。


やがて道に出る。かろうじて整備されているというような道で、舗装こそされていなかったが、

飛行場の付属施設群を中央で貫き、何処かへ繋がっているであろう道である。


ここを後続の部隊が来るまで保持と、

周囲を監視する役割を担う。


道の両サイドに分かれた。


何も無い、飛行場を背に、ずっと奥まで続く道の私達から見て左側、草むらの生い茂るところに伏せ、

しゃがみ、不意に現れるであろう増援にきた敵へ

備える。


他の分隊は森の中に隠れているが、装甲車の類が出てきた時、直ぐに対応できるようにそばにはRPG射手の

オーリャが控え、分隊長もいた。


一方で、道の向こう側には

トカレフ副分隊長、小銃手のセリョージャ、

機関銃手のフェジューシャと、

機関銃弾薬手のラーリャが待機している。


その間にも、上空で友軍ヘリが飛び回り、止むことなく、遠くの飛行場の方向から爆発音が聞こえる。


そんな中、じっと伏せて道路の緩やかな曲がり角を

凝視し続ける。


緊張とは裏腹に、鬱陶しい弊害の類…例えば、遠慮

なく這ってくる虫、蒸れ、特に死に直結する夏の暑さがないことは、好都合としかいいようがない。


しかし少しの静けさと相まって、ずうっと嫌な感じだ。

周囲を第2.3分隊が警戒してくれているとは言え、

視界に入らない味方に命を預けるということが。


聞こえるのは、数分おきに聞こえてくる安全確認報告の無線と爆発、銃撃音で、皆総じて動かないため、

足音の一つもない。


10分程過ぎた頃、第2中隊と合流し、森の中を道の両

サイドに分かれて空港に向けて前進する。


鬱蒼とした森の中。緊張の高まりからくる

鼓動の早まり。あたりに響く、近づく銃声と装備品の金属音と足音。時折入る無線の音。分隊長の警告の声。


それらが全ての聴覚を支配した。


恐怖しながらも目的地へ進む。


大きくなってくる銃声は、交戦地域内に近づき、やがてその場に入ることを示唆する。


降下直後、確認した小屋を横目に前進を続けると、

未整備の地面から整備された…道以外はコンクリートが敷かれた地面へと変わった。


右手には、次々とヘリボーンで降り立つ友軍が

見え、30mほど向こうに、白い建物が見えた。

その手前には、数名ほどの友軍の一団がいる。


前線は、まだちょっと遠いようだ。


白い建物を越えたところには、味方が交戦している。

同じ中隊らしい。


ついさっき、中隊本部を越えたばかりだ。

中隊長はここまで好戦的だったっけ…?


それかここで抵抗に直面したか。

友軍は滑走路の端から端を確保するように半包囲の構えに動いている。


「兵舎を制圧しに行くぞ!」


分隊長が叫んだ。


味方の援護を受けながら、手っ取り早い、一番近くの

建物にへばりつく。


目の前に横長の長方形のように横たわる、ちょうど中心にドアが付いた平屋に手榴弾を投げ込んだ。


建物の近くで事前に伏せたりしていた私達は、息を

こらえて待つ。


ドーン!


派手な爆発音が聞こえ、爆発や衝撃波で中の物体は完全に破壊されたであろう。


その凄惨たる内部へ、間髪なく突入する。

息を呑む瞬間、どこから撃たれるかわからない一番乗りの室内には、埃などが舞っている。


目を皿にして必死に辺りを確認する。

結果は、あとから突入したフェジューシャと同じく

クリアだった。


これを何回も繰り返し、制圧圏を広げていくのだ。

途方もなく、寿命が縮む嫌な作業になるだろう。


この一帯は兵舎らしく、二段ベッドや荷物類が

あるがいずれも散乱しており、当初の混乱ぶりは想像に難くない。


しばらくして、私達はあたりの建物を全て制圧した。

腕時計を見れば、20分以内のことだった。


安堵もつかの間、急いで眼の前の建物を制圧しなければならない。


建物扉が不意に開いて、中から人が飛び出してきた。


「コンタクト!」


引き金を引く。


3発射撃して辺りに銃声が響いて。発砲と同時に体が

崩れ落ち、うつ伏せで少し蹲る。


照準を下げて頭に狙いをつける。しかし。


手が私の方向に向く。降伏なら捕虜に―。

声を掛けるより先に、体が一度、短く痙攣した。


「!?」


力が抜けたように動かなくなると同時に、ハンガーの

中から別の分隊の人が出て来て敵の持っていたM16を

足で蹴って退ける。


「さぁ、行こう。」


後ろに向けて言った。


ハンガー内の制圧が完了したのだろう。中から味方の一個分隊が出てきて、左を向いて真っ直ぐに走り出した。


私達も後を追って走る。


この空間にも、死が何倍も身近にある。それを身を…

視覚をもって経験した。


ふと後ろから銃声が聞こえた。どうやら他の格納庫へも複数人が入り、制圧していたようだ。


警戒しながら後を追う。


周囲を見渡すと、

右手には40m離れて別の格納庫、前方には100mに

用途不明の建物がぽつんと立っている。


左手の格納庫を壁にしながら、ありとあらゆるものに注意を向ける。


車であったり、木箱の影であったり、対象は様々だ。

いつどこから敵が出てくるのか。何を撃ってくるのか。

考えると恐怖を伴ってきりがない。


恐怖を伴えばできることもできなくなる。それは死に

直結する。今を見ろ。常々言い聞かせてきた。


「っ!?」ドタッ!


パーン!


前の味方が突然倒れる。


「敵だ!」


思いっきり叫ぶと同時に近くの建物や物体の

影へ隠れ、身を潜める。前を走っていた友軍も

同じようだ。

 

その一方で、被弾した味方は道の真ん中で倒れている。

胴を撃ち抜かれ、血も出ている…まずいな…。


「ごほっ…ごぼぼぼ…っかはっ」


「1名重症!」


ついに吐血し始めたがしかし、我々は何もする

ことができない。


味方は口々に声を発して警戒、注意と索敵に努めて

いる。


唯一できるのは何とかして敵を見つけ、その位置に

向けて射撃することだけだ。


それに、救援に駆けつける存在を敵は狙っている

こともまた事実で、迂闊に出れば戦力の低下と手間が

増える。


私は索敵のため、少しだけ顔を出す。

すると、一瞬反射が見え、真っ青な顔に冷や汗を流し

つつ、すぐさま引っ込んだ。


スコープの反射、間違いない。狙撃手だ。

再構成むずいよー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ