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前線  作者: 御鎌倉
3/7

雷雨渦中へ

近々序章改訂あるかも

空漠たる感情が支配した。辺りも私も。


黙っていた。まさに鳩が豆鉄砲食らったかのように。


言葉の意味は至って簡単だ。


特別な作戦。


細部はと言われれば、なんとも言い難いら十人十色な

言葉。


しかし、これだけはわかることがあった。

戦争だ「ほとんど我々」相手の。


諸々を理解した時、冷や汗が背中を伝い、

寒気がした。


ざわつき始めた周囲に乗じ、安堵のために上官達に

話しかけたいものの、2列前にいてそれは叶わない。

隣りにいたラーリャに声をかける。


その頃には既に、ざわめきが空間を支配した。


「戦争ってことか?」


「そうかも。しかし現実とは思えないね。」


「ほら70歳じゃん…あの人、ボケてるんだよ。」


「なぁ、ラーリャ…どうにかできないのか?」


「できないって!」


聞きかねた分隊長が、少々呆れた顔で振り向き

こういった。


「おい、そのへんにしとくんだ。最高司令官だぞ

一応。」


「私はボケてなどいない。」


偶然の一致に分隊長は珍しくぎょっとして前を向いた。私達は笑う瀬戸際に立たされ、ダムの決壊をなんとか

防ごうとする。


「我々はかの同胞たちのため、傀儡政権を排除

しなければならない。」


「…マジか…。」


画面に示されたA4サイズ程度の紙…命令書らしきもの。

その紙一枚に、私達の命、生殺与奪の予定、運命が

載せられているのだ。


遠目から見れば…ほんの小さなピクセルの

集合体だが、心底恐ろしい…。


隣国、それも文化、人種的に我々と何も変わらない…

極端に言えば僅かなズレしかない、我々に対して、

人畜無害で特別視も何もしていない国だ。


そんな国に、血を流し、流させに行くのだ。


しかも無辜の相手国民に「助けに来たぞ!同胞の

みんな!」などいいながら。


愉快や、血湧き肉躍る感情なんて起こるわけがない。

英雄譚であるわけがない。なるはずがない。


確かに、我らの仮想敵国と接近しているという動きは

ニュースでも取り上げられていた。


しかし、なにも戦争をしなくてもいいのではない

だろうか。いや。そうでもしないとまずい状況に

なったのか?


何一つわからない。


そこからは大統領の独壇場だった。


彼は言いたいことを全て話した。しかし、あまり耳を傾けるものは居なかった。傾けられず、誰もが、

ボケていると思っていた。


なにより、一番の思いは戦争に行くことへのショックだった。


数分か、数時間かわからない時間が経った後、

画面が暗黒に包まれ、旅団長が即席の壇上に

上がった。


「総員、なすべきことをなせ。以上だ。」


あっさりとしていた。私達を心から信頼してくれて

いるのだろうか。命令に従って動くことに。


3段もの略章に加え、空挺、特殊任務、水上、格闘、

冬地、精強徽章を持ち、特級射撃章まで持っているのに。


何をどう生きたらそこまで精強になったのか。

100人で襲いかかって殺しても死なない…殺す前に

皆殺してきそう人だ。そんな人が私達を信頼しているなんてこと、あるわけないか。


やがて、指揮官クラスは各所に集められた。


私達は顔を見合わせた。皆が無表情だった。


「結局、戦争に行くのか?これ。」


ラーリャがよくわからないといった口調に誰もが納得するだろう。実際、誰も。私もわかっていない。


「そうらしい。」


「でも、これって特別作戦だって言ってたし…そう

思えば多少は楽になるくない?気持ち。」


「やってることは立派な戦争じゃ…ないか?」


どう言葉を変えようとも、他の主権の及ぶ所に

異なる主権を持った軍隊が侵入してその軍隊が持つ

主権を行使する…。


立派な主権侵害だ。


「しかし、宣戦布告したのか……。」


セリョージャがふとつぶやいた。


「確かに…。」


「してなかったら…まぁ、一応戦争ではない…か。」


皆が皆、忌むべし侵略戦争への参加……加担に対して決して良くない印象を持っていた。


自らの時代に戦争が起こること、そして自らが加担

するなど思いもしなかった。


しかし現実として加担し、宣誓のうちのひとつを

実施することになった。


「かつて我々が西へ東へ行ったのは、他国を侵略するためじゃないんだぞ…!」


何処かから聞こえた声。みな戸惑っているようだ。


「不運だな…。」とフェジューシャが言ったのを

皮切りに皆、無言になって数分後。分隊長がやってきて皆を集めた。


「…まったくだよ。戦争なんて…そう思うのは

私だけではないはず…そうだよな?」


最初は誰も頷かなかったが、フェジューシャが頷くと

誘発されたのか、私含め皆が首を縦に振っていた。


「よかった。しかし、宣誓が……全てだ、

我々はこんな時のために訓練してきた訳では無いとはいえ…。とにかく作戦を説明する。」


分隊長は地べたに一辺90cmの正方形の地図を

広げた。それは共和国との国境地帯の地図だ。


「大まかな目標は民間飛行場の確保と空挺堡の

構築だ。すぐに、遅くても3日以内に地上軍が来る

ことになっている。」


地図上では、北を上として見た場合、

今私たちがいる飛行場は西に位置する。


そこから目標の民間飛行場は北東にあり、

その更に北東、あまり離れた距離ではない所に

の副首都とも言われる都市がある。


国境から民間飛行場。そして民間飛行場から副首都間の距離は等間隔といった感じで、すぐにでも後詰が

到着できそうだ。


それはともかくとして、空挺軍はここを飛び

立った後、一旦北、友軍の航空基地に向かう偽装進路を取りつつ、上空でターン。一気に民間飛行場へ向かうらしい。


続いて分隊長は、飛行場の地図を取り出し、

正方形の地図に被せるように展開し、官給品の軍刀で着陸位置と目標を指す。


まとめるとこうだ。


我が国と、彼の国の国境線。その西30kmに位置する演習場から、一旦北へ偽装進路を

取りつつ、東に100kmに位置する飛行場へ向かう


任務の性格としては、強襲。

つまり、突っ込んで乗り込んで占領する。


なるほど、理解した。


「現地からの情報によれば、少数の航空軍要員の他に、多くのトラックが確認された。注意すべき

だろう。なにか質問は?」


誰一人としていなかった。皆理解したようだ。


「あぁ、スマホは回収だってさ。」


「え〜…そんなぁ。最後にメールしていいですか?」


「いいぞ。早く済ませろ。」


みな、名残惜しそうに、死刑囚の最後の食事が如き

表情であった。まさに餞別のような。


これからヘリに乗り込網というその前に分隊長は

振り返って、私たちの顔を確認するように見てから

こう言った。


「こんな戦争で死ぬな。生きて帰るぞ。帰ったら、

皆で大騒ぎしよう。今までにないくらいに。」


振り絞ったような、分隊長の言葉と声だった。


そしてヘリに乗り込んでからは早かった。


点呼を終えて、パイロットが発進準備完了を告げた。


ヘリのエンジン音、振動は大きくなっていき、

窓の外で、他のヘリがどんどんと飛び立ち始めた頃、

私達の機体も足を地面から離した。


「こちら2番機take off.」


郷里からの旅立ち、私にとって初の海外は

世間一般と同じ国…しかし目的は

観光や就労、移住でもない、特別作戦…直球に

言えば、戦争だ。


戦闘、兵員輸送連合の100機ものヘリが、一路北を

目指す。


高度は30m以下。まさに私達の気持ちを代弁するかのような低さだ。


誰が言ったか「気のすすまない戦い」とは、ともかく

こういう事だったのだろう。


頭を有象無象が占める。防衛機制によって、

簡単な思考一つすらままならない。


すべてに、霧がかかる。


戦争の経緯は?いつ終わるのか?

大統領の演説や、出撃命令は偽ではないのか。

私の聞き逃しではないのか。もう少しで私は死ぬ

のか。


これは夢ではないのか。


様々な考えがぽつりぽつりと浮かんでくる。


しかし、それは北から東へね方向転換によって打ち

切られる。


窓の外には空港があった。あぁ、ターンしたのか。


次の瞬間、私は目を見開いた。


空港には数多くのTu-95、160、22Mやsu-25などの

固定翼機のほか、軍用ヘリも駐機しているではないか。


ここはハブ空港だったはずでは―。


目をこすり、ドアをこすった。


設備自体は何も変わらない。あるのは軍用機ばかり。

いや、それのみに。


座学で戦争とは総力戦だということを何となく

理解はしていたが、まさか。


次第に、外の風景は見慣れぬものとなっていく。

旅行中、窓に移る風景を見る子どものように、

驚きとそれらを私は一望していた―。

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