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エンゲブラ的短編集

作者消失

作者: エンゲブラ

ある時、「作者」が実在しない小説が一冊、社内から見つかった。


出版社名は、うちの会社。

社内データベース上にも、ちゃんと掲載されている単行本。

だが、部署内の誰ひとりとして、その作品の存在を知らず、また作家との契約データファイルの署名も「存在しない作家と存在しない社員」により、締結されたものであった。


自社の名が、しっかりと表紙には記載されており、偽本にしてはあまりにも細部にまで凝り過ぎていて、いたずらにしてもコスパが悪い。


最初に、この本を発見した派遣社員Kは、そのタイトルに惹かれ、表紙に記載された作家名を何気なく検索した。そこで発覚したのが、今回の事態である。


作品名は『作者消失』

<タイムパラドックス>を描いた作品で、その物語の中でも、作者自身の存在そのものが消失するといった、現在の状況にもよく似た、何とも奇妙な内容となっている。


この作者は、いったい何者なのか?

そして、奥付に記載されている編集者も、いったい誰なんだ?


データベース上では、ちゃんと存在するゴーストのようなふたり。

あるいは、この物語の中で描かれている「タイムパラドックス上の残滓」のようなものが、この本の存在とデータだとでもいうのだろうか?



(けっきょく何なんだろうな、この本の正体って……)


「あっ、『作者消失』じゃない、それ。懐かしい!」


「えっ、この本の正体、知ってるんですか、○○さん?」

ふり返ると、営業で来ていた子会社のベテラン編集者の女性が立っていた。


「ええ、だってそれ、私がこの会社にいた時に、いたずらで作ったSF小説だもの。そんなもの、いったいどこで見つけたのよ?」


「えっ、あ~、ええとですね……」


「とりあえず、それ、記念に貰って帰ってもいいかな?もう手元に一冊も残ってなくてさぁ」


「えっ、あ~、いい……ですよ(いいのかな)?」


ぶん取るように本を手にした女編集者は、一瞬、それまでの絵に描いたような作り笑顔をやめ、浅い溜息(ためいき)をついた。そして、すぐさまセカンドバッグに『作者消失』を仕舞い込み、「それじゃあ!」と足早に部署を後にする。


その様子を遠巻きに見ていた部長が、のっそりと近寄ってきて、

「今の、以前この部署にいた○○だったよな? 同期の俺には声もかけず、そのまま出て行くとは、なんて水臭いやつ……あっ!そういえば、思い出したぞ!」


「えっ、あっ、何を……ですか?」


「あれ、たしか○○の旦那の名前だわ!」


「はっ、何が……です?」


「だから、あれだよ、あれ。『作者消失』の作者の……ん、でもアイツって子会社の副社長の嫁だし、離婚もしてないはずだし……あれ?」


「……どういうこと、ですか?」


「いや、しかし……たしかに俺は○○と作者の結婚式にも参加してだな……あれ~?」


「あ、それ、私も参加した気がします。けど、彼女の旦那さんって△△社の副社長の◇◇さんで……ほんとだ、あれ?」

通りがかったベテラン女性社員も、また部長と同じようなことを言い出した。

その後も続々と「彼女と作者の結婚式」への参加を「思い出した」同僚が後を絶たず、部署内では、また『作者消失』の話題で持ち切りに……。


―― これは、いったいどういった現象だ?


謎が、いっさい解明されないまま「オチも消失」するような話なのか、これ?




補足)

女編集者○○さんの旧姓は「存在しない編集者」の名前であり、また○○さんの存在自体も「部署にまた顔を出した時点」で、みなが同時に「思い出した」という裏の描写が、作中では省かれています(今読み直して気付いたけど、わざとということにしておく。パラドックス、パラドックス)。



(※)本作は、本日1月18日付のナゾロジーで掲載された記事タイトルだけを着想に書かれた短編です。勝手に「マンデラエフェクト」のような仮説と想定し、書かれております。



書き終えてから調べたら『作者消失』ってそのままのタイトルで、赤川次郎が書いた小説がある模様。このタイトルを無意識に、過去に見かけたことがあったのかな、俺? どうやら内容は、全く違うコメディーのようなので安心。

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