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一
深夜三時。
コンビニの蛍光灯が、半分死んでいた。
「あの、これ……お笑いの参考書、なんですけど」
レジに立つバイトの大学生は、目の前の老人を疑わしく見た。ぼろぼろの革ジャンに、無精髭。両手に抱えているのは、明らかにコンビニで売っているはずのない古びた書籍の山。
「参考書?」
「そう、参考書」老人は片目を細めて笑った。「でもまあ、参考書じゃないんだけどね」
「は?」
「笑いを極めたいんだろ?」老人は鋭い眼差しで青年を見据えた。「君の目を見れば分かる」
青年は無意識に一歩後ずさった。素人の漫才コンビを組んでいることなど、誰にも言っていないはずなのに。
「私が誰か分かるか?」
青年は首を横に振る。しかし、どこかで見たような。いや、テレビで……。
「かつて『笑いの神様』と呼ばれた男だ」老人は自嘲気味に笑った。「まあ、今は神様でもなんでもないがな」
コンビニの自動ドアが開く音。しかし、客の姿はない。
「で、どうする?本当の笑いを知りたいか?」