4-夢がかなう日
あらすじ
人としての尊厳と引き換えにビキニアーマーを着た大男。
彼はビキニアーマーの力で竜を見事に討伐してみせた。
「……」
ビキニアーマー専門店を開業して一か月くらい経つが、今までの来客は二人だけ。売れたビキニアーマーは一着のみ。買ったのは男だ。あんなに高性能な鎧なのに、どうして誰も買わないんだろう。やはり、着るのが恥ずかしいからか? そうだろうなあ……。
ビキニアーマー普及のためには、もっと大々的に宣伝しないといけない。大金を叩いて美女にビキニアーマーを着せ、大通りで宣伝文句を書いた看板を持たせるか? 行政に止められそうだから却下だ。
「よお、店主。久しぶりだな」
「あ、貴方はいつかの……」
この店で唯一──いや、世界で唯一のビキニアーマーの購入者である大男が店に来た。もちろん、ビキニアーマー姿だ。
「お礼を言うのが遅くなってしまったな。すまない。そして、ありがとう」
「お礼?」
はて、お礼とは何に対してだろう。
「このビキニアーマーのおかげで、俺は命拾いしたんだ。この前、鋼竜に挑んだ時、ビキニアーマーを着ていなかったら俺は死んでいただろう。この店では、命の買い物をしたと思ってるよ」
「ああ、そういうことですか」
鋼竜を討伐したビキニアーマーの大男の噂は、俺の耳にも届いている。そうか、自分が作った防具が役に立ってくれたのか。素直にうれしいな。
「それにしても鋼竜を討伐するだなんて、ビキニアーマーを抜きにしても凄く強いんですね。戦闘の才能があるんじゃないですか?」
「いいや、俺に才能なんてなかった。ただ家族のために魔物を討伐して稼いでいたら、いつの間にかこうなった。一瞬一瞬に全力を注ぎ、必死で戦っていたんだ」
一瞬一瞬に全力で……。かつて、学業や職人修行に勤しんでいた時の自分もそうだった。この人は俺と似たところがあるのかも……。
「それで、うちの娘も冒険者になりたいと言い出してな。しかも、ビキニアーマーで戦いたいと言って聞かないんだ」
「え、娘さんが!?」
彼の娘と言うと、あの日店に来た細身で長身の子か……。俺の思惑通り、ビキニアーマーで名を上げた父親の雄姿を見て感化されたのか。
俺は顔には出さなかったが、心の中で歓喜の声を上げた。やった! 俺が四半世紀近く続けてきた努力が実を結んだんだ! 心が嬉しさのあまり、涙を流しているのを感じた。心臓が高鳴った。ああ、夢がかなう瞬間というのは、こんなにも……。
「さあ、入って来てくれ」
大男がそう言うと、天井に頭がつきそうな大男がヌウっと店に入ってきた。灰色の長髪を無造作になびかせ、鋭い眼光の瞳は青色。俺が腕を広げたくらいの肩幅があり、筋骨隆々で威圧感が半端ない。
一人目の大男と瓜二つだ。双子だろうか。ビキニアーマーを着た一人目と、白い半袖と長ズボンの二人目。服装以外での判別が不可能だ。
「俺の娘のマリアンヌだ」
雷のような衝撃が走った。二人目の大男が、娘さん……? 俺の目がおかしいのだろうか。
「え、あ……。あの時、店に来た娘さんですか。父親に似て、逞しくなられて……」
「あ、違うぞ。以前店に様子見に行かせたのは、上の娘だ。マリアンヌはその妹だ」
姉妹だったか! しかも妹って!
「この子は俺によく似てるだろう? 目じりの辺りとか」
いえ、逆に似てないところが見当たらないんですが……。
「こんな可愛い娘が人前で肌を見せることには反対なんだがな……」
女性にビキニアーマーを着せる。それが俺の夢だった。しかし、この場合はどう判定すればいいのだろう。性別は女性だが、性別以外は全て男だ。筋骨隆々の大男だ。彼女がビキニアーマーを着たとして、俺の夢がかなったと言えるのだろうか……。
わからない。茫然自失となり、思考が空の彼方へ飛んでいく……。というか、凄く失礼なことを考えてるな、俺……。
「だからできるだけ、布面積の多いビキニアーマーを売ってくれ」
「え、でもビキニアーマーって、布面積が少ない方が強いのよね。私、パパと同じ物がいい! それで、私も頑張って強くなって、パパの役に立ちたいの!」
娘さんは声まで父親と同じだった。
父娘で体型が完全に一致しているので採寸はせず、以前父親に作ったのと同じビキニアーマーをこしらえた。
その後、町ではビキニアーマーの大男が双子だったという噂が広まった。
ビキニアーマーを女性に着せる。その夢にはまだまだ届きそうにない。しかし、ビキニアーマーを着る者が二人も現れた。たった二人だけど、夢への大きな一歩を踏み出せた気がする。
これからあの大男のように、昔の俺自身のように、一瞬一瞬に全力を注いで頑張っていこう。
まとめ
ギリギリ、夢はかなった(?)
好評であれば、連載版も考えております。