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【恋愛 現実世界】

白々と、あまりにも白々と

作者: 小雨川蛙


画家エミールの名前は誰もが知っていた。

何せ、小学生の歴史や美術の授業で必ず紹介されるからだ。

仮に学校にほとんど登校していないような生徒であろうとも、テレビやネットで定期的にエミールの絵やエピソードが出回る。

描かれた絵画が展示されている美術館は一日に万を超す数の見物人が訪れるという。

そんなエミールの代表作に『理想』というものがある。

内容を端的に表せば一人の老人がこちらを見返している。

ただそれだけ。

つまり、それは俗にいう自画像なのだ。

だが、描かれた時期が実に奇妙であり、なんとこの絵は画家が十歳になるかならないかの頃の作品だという。

題と合わせて実に様々なことを想像させるあまりにも味のある画であると言える。

しかし、この話。

本題はここからなのだ。

実はこの『理想』は一枚だけでなく、同じ題で数十枚存在する。

内容はやはり自画像なのだが、年代毎に並べていくと幼い頃には老人として描かれ、逆に年老いてくる毎に若くなっていく。

エミールが晩年に描いた『理想』では無垢な赤子がこちらを見つめている。

題と合わせて考察するならばかの画家は常に自らの『理想』を自画像あるいは記録として残していたのだ。

つまり、幼年の頃であるほど成熟した老人であることを望み、反対に老いて死に近づくにつれて若く無垢であった赤子に戻りたいと願う。

自らの内に常に理想を持ち、芸術に真摯に向き合う。

そんな画家の数十枚にも及ぶ『理想』は今日でも数えきれないほどの人を魅了し続けている。

「ねえ、エミール」

私は隣で熱心に老人の絵を描く幼馴染に声をかけた。

「なんで、そんなお爺さんを描いているの?」

「んー?」

エミールは間抜けた返事で答えた。

「偉大な画家になるためさ」

「どういうこと?」

「そのうち分かるさ」

芸術家って全く理解できない。

半ばうんざりしながらエミールを。

つまり、後に夫となる少年を見つめていた。

彼が何をしようとしていたか、そして如何に見事に自らを仕立て上げていたのかを知るのは、それから十数年も後のことだった。

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