2日目03理解
「理解フェイズ…まさか」
由衣が呟く。
「推察の通りさ。自分のことを、皆に理解してもらった人間は、この場から消え去る。
つまり、ゲームオーバーだ」
宋史がそう言った。
「ちょ、ちょっと待ってよ、それじゃあ…」
「ああ」
「お、おれのセックスのことも」
「ああ、君をみんなに理解させてあげたんだ」
「こ、このヤロウ…!」
「暴力はルール違反だよ。暴力を振るい相手を殺したものには死が訪れる。
そんなことをしても面白くない。
これは純粋に頭の良さと経験がものをいうデスゲームだ」
「幸いにも君は生きている。君にもまだ誰にも理解されていない部分があるということだろう?」
「待ってよ、それじゃ、それじゃまるで」
まるで。
「私が、殺したみたいじゃない!」
「いや、最終的にあれは自殺だろう。
そう持って行ったのは君と僕だけどね、さくらさん」
「人を殺すことって、そんなに恐ろしい?さくら」
由衣が平然と言う。
「そうね、人を殺してぐるぐる巻きにしても平然としている人間もいるのにね」
心臓が破裂しそうなほどどくどく鼓動しているのが自分でもわかった。
(千里さんはまさか私のカードを!?
まさかそのカードの持ち主が私だと!?
それとも、由衣が私のカードを!?)
「さくら姉さま、真っ青です」
「ぁ、ぁぁぁっあっあっぁっ」
「大丈夫です。すずは責めません。これは、ゲームによる死亡です。
決して、姉さまのせいではありません」
「ご、ごめんなさい、ちょっと眩暈が。許して」
「結局…積極的に情報交換を進めていった方が自分にとっては得のようだな」
それまでずっと黙っていた健二が、口を開いた。
「信じる信じないは別にして、俺の見た内容は、ヒステリーを起こして食器を親に投げつける女だ」
ああ、誰のことだ?
私のことではないのは確かだ。が、疑心暗鬼になる。
これが誰のことかわかることで、その相手の命を1段階追い詰めることができるのだ。
「テレパシータイムですっ!
宋史さん。あなたは本当にかわいそうな人間です」
「かわいそうな人間なんて、きっとここにいる人間みんなだと思うよ」
ぶれない宋史。
「ところで、幸恵ちゃん、どうしてそんな風に思ったの?」
「はい、私の見たものは、絶望でした。
暗い闇の中、誰も信じる人もいない。
物心ついた時から、彼はそうでした。
誰かを騙し騙され、そんなことばかり繰り返し…」
「残念だけどそれは僕じゃないね、と言っておこう。
もちろん、信じるも信じないもその人次第だけど」
宋史は、慣れている感じがした。
「まぁ、もっとも僕じゃなかったら健二くんか弘樹くんの二人になるがね」
健二、弘樹が反応を示す。
特に弘樹は、すっかり言葉数が少なくなっていたため、余計に目立った。
「しかし、愛を重んじる弘樹君がそのような環境に生まれ育ったとは考えにくい。
ということは…」
宋史は続けた。
「健二くん、君になるね」
「その通りだ」
「俺は物心ついた時から誰も信じず生きてきた。
だが、それがなんだ?」
「ふうん。本当に誰も信じていなかったのかなぁ」
「答える必要はない」
「うん。答えないってことは答えてるってことに等しいんだけどね」
「…」
健二が宋史をひときわ強くにらむ。
「待て!」
弘樹が声を上げた。
「いま、健二の情報が出た。
おれの情報は、こいつが言いやがった。
ということは、残り一人の男の情報は、自動的に宋史のものになる」
「あー、そう言われてみればそうだね」
「みんな、教えてくれ、この中で男の情報を持っているのは誰だ?」
「私は女の子の情報よ」
由衣はそう言った。
「私もぐるぐる巻きになった女の子の情報を持っています」
千里さんもそう言った。
「私は…清三さんのだから」
私はさきほどの事実を繰り返した。
「…俺も女の子の情報だぜ。
どうなってやがるんだ?」
宋史は意外なことを言った。
「きっと、死んだ清三くんが、僕の情報を持っていたんじゃないかな」
「は!?」
「その情報って、どうなるんだよ!」
「もちろん、それを持っている人間が死んだところでフェードアウトさ。
…本当に彼が僕の情報を持っていたとしたら、だけどね」
「な、なんて卑怯な…」
「これは完全なアトランダムだよ?そんな僕に有利なようにできるわけないじゃないか。
偶然だけど、僕はついてたみたいだね。
でも、こういうゲームで一人だけ目立つのって、あまり得策じゃないんだ」
「どういうことですか!?」
すずが尋ねる。
「一番狙われるってことさ。はーあ、ぼくの仲間はもういないかも」
さぞかしどうでもよさそうに、宋史は続けた。
「しかし、明日からもまた個人情報が無理やり漏洩していくってことよね。
しかも、それを特定されればされるほど死につながる…」
「とんでもないゲームね。
ゲームマスターを探し出せばあるいは、別の道があるかもしれないわ」
「無理だよ。最後の一人になれないとゲームマスターには会えない。そういうルールだ」
「さっきから宋史くん、
あなたやけに詳しいわね。
どういうことか話してくれない?」
「ぼくは命がけなゲームに心が揺れる体質なんだ。
…おっと、これぐらいにしておこうかな。あまり自分のことを話すのは得策じゃない」