表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

2日目01意見交換

「それでは、ゲームの説明を行おう」

朝食後、私たちは例の通り9人集められていた。

「ゲームは1日3フェイズで行われる。


第一フェイズ。これは「意見交換」のフェイズと呼ばれるものだ。

対談のフェイズでは、まず、各自の「記憶」をカードの中にコピーする。

コピーしたカードを交換してそれぞれの参加者に配る。

参加者は配られてきた「記憶」の内容を知ることができる。

ただし、それが誰の記憶かまでは知ることはできない。


カードは回収され、破棄される。次の日には新しいカードが作成され、

違った部分の記憶が、また誰かのところへ情報として伝わる。


第二フェイズ。これは「対談」のフェイズだ。

これは端的に言えば「意見交換」のフェイズで得た情報をもとに皆で話し合いを行ってもらうということだ。


第三フェイズ。これは「理解」のフェイズだ。

この理解こそがヴィクトリアの椅子取りゲームの絶対的なカギとなっている。


説明は以上だ」


「質問」

由衣が手を挙げた。

「『理解』のフェイズの説明があいまいなのはどういうこと?

あと、各フェイズの時間配分は?」

「意見交換が終われば自動的に対談に移る。理解のフェイズに至っては動的なものなので

はっきりとスケジューリングするものではない」

無機質な声が響く。

「ふーん」

「理解…ねぇ」

私は呟く。

「理解はヴィクトリアの椅子取りゲームにおいて最も大切な要素だからね。

理解こそ椅子取りゲーム、そう言い切ってしまっても過言ではない」

「どういうことよ」

「こんなものは説明したって抽象的で分からないよ、実際に体で理解するのが一番早いんだ」

「あっそ」


「では、さっそく、『意見交換』のフェイズを行う」


目の前にカードが配られた。

「カードに意識を集中させてください」


アナウンスに従い、意識を集中させていく…。





「いいやま!チョームカつく!!」

「あのへんたいきょーし、わたしのパンツみてわらってやがんだからっ!!」

「ひととしてそんざいするかちがないよ!あんなやつ!」

「ころしちゃえばいいんだ!!」

「けいかくたてようよ!みんなでかんぜんはんざいのトリックをかんがえようよ!」

「ロープをつかって、ナイフをくびにおとしてやればいい!」

「そんなことしたら、しょうこがのこっちゃうよ!」


そう、

それは他愛ない冗談。

誰にでもはないかもしれないが、まぁあるにはある。


「ありばいをつくればいいんだよ」

「ありばい?」

「そう、いいやまをゆうちゃんがころしたときに、みんなはゆうちゃんといっしょにいました、っていえばいいんだよ」

「あ、そっか!」

「すごい!やっぱりてんさいはちがうな!」

「ころんだふりをして、ゆだんさせればすぐにちかよってくるよ。

で、ほうちょうをはらにさしたら、いいやまはしぬよ」

「すごい!てんさいじゃないか!」


うん。

てんさいとよばれてまいあがっていたのは、みとめる。


「じゃあさぁ、いつにじっこうする?」

「え?うーん、まぁ、そうだね」

「いつでもいいんじゃない」

「そうだね」



「ねぇねぇ、いつじっこうする?いつじっこうする?」



わたしは、みんなとちがっていた。


わたしは、ほんきだったんだ。


そして、わたしがみんなからしらないまにさけられていたことのひとつは、

それでもあったんだ。

こわがられていたんだ。

おそれられていたんだ。


でも、わたしは、そんなこと、なにひとつきづかなかった。


…私は。






意識が戻る。

(は、はぁ…はぁ…はぁ……

な、なにこれ……)

気分が悪い。


はっきりと思い出した。

思い出したくもないことを、思い出した。



・参加者は配られてきた「記憶」の内容を知ることができる。


(そんなっ、あんな記憶、知られたくないっ)


・ただし、それが誰の記憶かまでは知ることはできない。


顔を上げる。

みな、頭を抱え、あるものはぼーっとし、あるものはうずくまっている。


全員の記憶がカードにコピーされた。

続いて、それがアトランダムに、「配布」される。



誰のカードか分からないカードが配られてきた。

カードが脳内に語り掛けてくる…。





「おとうさんは、なんのしごとしてるの?」

「政治家さ」

「せいじかー!?うらでけんきんしたり、わるいことをもみけしたりしてるの?」

「ははは。そんな力が父さんにあればいいけどね」

「父さんは、一応この町の議会の議長になった」

「ぎちょう?」

「町で一番偉い人のことだよ」

「そんなにえらいの?」

「といっても、できることは限られている。予算をやりくりしないといけないし、

…あーおまえにはまだ難しいかな、とにかくできないことだらけなんだ」

「なーんだ」

「でもな、父さんは、町を守らなくちゃいけないんだ。

 みんなが父さんをえらんでくれたから、父さんはこうして仕事ができている。

 だから、そのお返しをみんなにしないといけないんだ」

「そうなんだ。よくわかんないけど、おとうさんは、すごいんだねっ」

「すごかないぞっ、父さんの上にはまだまだたくさん人がいる。

その人にたくさん頭を下げないといけない。政治家って言うのはそういう仕事だ」

「そうなの?」

「おまえも言ってたじゃないか。責任は一番上がとらないといけないんだ」

「したのひとのせきにんもとらないといけないの?」

「権力を持つということはそういうことなんだよ…っておまえには、まだ難しいかな」

「うーん、けどおとうさんがすごいことはわかった!」


町の議会と建設業者の談合がばれて、父は謝罪した。

よくわからない公費の請求の勘違いもばれて、父は謝罪した。


ぼくの家にはよく電話が鳴るようになった。

「何が町のためだ!クソ政治家!死んでしまえ!」

ついったー、というものでも炎上しているらしかった。

「おまえ父親がやった違法献金のぶん、俺らに還元しろよ」

「やっぱり父親が屑なら、子供も屑だよね」


おとうさんは、町のために頑張った。

少なくとも、僕はそう信じている。


なのに、町の人たちは、お父さんを信じなかった。


どうして勉強も大してしていないのに、真実を知っている気になっているのだろう。

自分の体験したちっさなちっさなことが、世界のすべてだとでも言い張るのだろう。


どいつもこいつも。

どいつもこいつも。


どうして、こんなに救いようがないぐらい、愚かなのだろう。









…はぁ、はぁ…


憎しみの感情がストレートに伝わってくると、そこには嫌悪感があった。

でも、こんな感情を抱く人間は、一人しかいないと直感した。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ