1日目03-夜
私たちは、食事のあと、部屋を分かれて寝ることにした。
「姉さま、狭い部屋ですね!」
「…」
「ああっ、ベッドが一つしかありません。
分かりました、すずは床に寝ます!」
「…あんた」
「どうしました、さくら姉さま!?」
「ここで、寝る、つもり?」
「はい!もちのろんです」
「自分の部屋は?」
「信用できません!」
「どういう意味よ!」
「あのね、わたしひょっとしたら、ほかの人たちに嫌われているかもしれません!」
「は?」
「私の口が滑るところ、空気が読めない所、すべて嫌われるにはばっちりな要素がそろってます!」
「うん」
「即答しないでくださいっ!」
「いや、事実嫌っている人がいるもの」
「そうなんですかっ!やはりとはいえ、その事実を突きつけられると乙女ハートがブレイキングです!」
「…そうね、現実はつらいわね」
「でも、そんな現実にも、私は立ち向かっていきます!
なぜならさくら姉さまがいるから!
で、その私を嫌いつて言うのは、どこの誰なんです」
「氷山さくらっていう女の子よ」
「なんですってっ!さくら姉さんと同姓同名ですかっ!そんな人物がどこにっ!
この床の下かっ!?それとも、このタンスの中かっ!?」
(馬鹿にしてるんじゃないでしょうね…)
「同姓同名もなにも、わたしよ」
「え?
えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
「そんな素っ頓狂な声あげないでくれる?」
「ということは姉さんは私のことが嫌いですかっ!」
「ええ、大嫌いよ」
「ということは巡り巡って好きと言うことですねっ!傍にいてください!」
がくんっ!
「なんでそうなるのよ!」
「物事はポジティブに考えるべきだと高校の先生に教わりました!」
「度を過ぎたポジティブは危険だと私から伝えておくわ」
「…えーと」
すずはちょっとばつが悪そうな顔をする。
「それって、私とは居たくない、ってことですかね…」
「ま、単刀直入に言うと、そういうこと」
「…」
「はっきり言って、出会って間もないあなたを信用できない。
あなたがやけを起こして私を殺す可能性だってないとは言い切れない」
むしろありそうな気がする、とはさすがに言わなかった。
「信じてください、私のこの汚れのない純粋な瞳を」
「瞳で人がわかると思ったら大きな間違いよ」
「え?」
「きれいな瞳をして、そのクセ心の闇に爆弾を抱えてるような人間、腐るほどいるわ」
ドアを開けて…
「待ってください」
「しつこいわね」
「私泣きますよっ!泣き叫んでドアを叩きますよっ!それでもさくら姉さまは私を追い出す鬼畜生主ですかっ!」
生主?まぁおいておこう。
「その根性を叩き直せと言ってるのよ!人に依存しすぎ!」
「依存しますよっ!弱いから依存するんですっ!強い人にはそれがわからんのですよ!」
「何を騒いでるんだい?」
あ、宋史とかいう変な奴が入ってきた。
これは嫌な予感がする。
「なんで入ってくるのよっ!」
「はっきり言っておふたりさん、うるさいよ?」
「へ…」
「外まで聞こえてるんですか!?」
「…も、申し訳ない…つい、ヒートアップしちゃったわ…」
「全くですよ姉さん、みんなに迷惑をかけちゃいけませんよ」
「あんたのせいでしょうがー!!」
「あ、またうるさい」
「黙れ愚民!眠れんだろうが!」
「人生は愛と暴力とセックス!しかし行為は隠れてひっそりと行うべきだ!」
わけわからん苦情。なんて不条理なんだろう。
「まぁ、おふたりさん、ここは話し合いだ。今回の争点は?」
「すずは姉さんといっしょに寝たいですぅ。なのに姉さんは外にたたき出してくるです」
「私にもプライバシーというものがあるのよ」
「なるほど、仕方ない。
これを解決するには、第三者の力が必要だね」
「?」
すごく嫌な予感がする。
「ぼくもこの部屋で寝よう。それでパワーバランスが取れて、問題は解決だ」
「なるほど、パワーバランスが世界を救いましたよ、さくら姉さん」
「おまえらは何を言っているんだ」
つい口調がきつくなる。
「三すくめの関係と言うのは思ったよりなにもできないものだからね。
ジャンケンしかり、三権分立しかり。
問題解決の方程式の一角を担う重要な存在さ」
「私に安眠権はないの?」
「権利と権利は互いに侵害しあうことがある。それを調節しあうのが人間の裁量ってやつだ」
「そんなもっともらしく言われても」
「それとも、ここでごね続けて全員を敵に回すかい?」
「ヒエーッ!!」
「なるほど、状況が理性を追い越したとき、君は奇声を上げるんだね」
そんな解説されても困る。
「まぁ、僕が真ん中で、きみたち二人が左右に分かれれば、問題はないんじゃないかな」
「なんであなたが真ん中なんですか!」
そこには、すずが突っ込んだ。えらい。
「中立的な存在が僕だからね。僕が入ることでこの部屋の平穏が保たれる、
ぼくはそう理解しているよ」
もう、いい加減鬱陶しかったので、ベッドに寝る。
宋史とすずは床に寝る。
すずの寝息が聞こえてきた。
単純なやつだった。
「宋史くん」
「なんだい」
「あなたはヴィクトリアの財宝を、信じてるの?」
「見るまでは信じない。だから今は信じるとも信じてないとも答えを出さずに保留している」
「あなたがヴィクトリアの財宝を手に入れたら、どうするの?」
「それはこのヴィクトリアのゲームの趣旨を分かって聞いているの?」
「え?」
「そうだろうね。僕は少々このゲームのことに詳しい。だからこれでも
もめ事をとりあえず自分が吸収したり、割って入ったりはしているつもりだ」
「ふーん…」
とてもそうは思えない。
「ゲームが始まる前に参加者が脱落したら、それはゲームの不備になるんだよ」
「不備?」
「全員即殺さ。ゲームオーバー。だからこのゲームは嫌なんだよ」
「ゲームオーバー…」
「あ、もちろんこの不備も僕が君を動揺させるための嘘かもしれない。
こういうところも僕いやなんだけどね、信じるか信じないかなんて結局その人次第だからね」
「そうね」
「でも、なんとなく君は行けそうかなと感じたんだ、これは僕には珍しい直感だけど」
「ふぅん」
「ま、信じる信じないはべつにして、これ以上詮索を続けても頭が疲れるだけだよ。寝よう」
「そうね」
私は眠りについた。