表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

1日目-02 食事会

「楽しいゲームの始まりだ」

音響機材から声がした。機械音だ。

「あなたは何者?どこにいるの?どうして、こんなゲームを企画しているの?」

「せっつくな。

そんな質問に意味はなかろう」

「なんですって…」

私の質問をあざ笑うかのように、スピーカーの声がこだまする。

「君たちはゲームの参加者、私はゲームの仕掛人。それ以上でも、それ以下でもない。

それ以上の情報も、それ以下の情報も必要ない。わかるね」

絶対的で、何か逆らえないような物言いだった。

「まぁせっかく参加した君たちのために食事を用意している。

 安心したまえ。毒など入っていない」

「安心しろって言われてもね…」

「せっかく集まったのだから仲良くおしゃべりでもしたらどうだね」

「仲良くおしゃべりなんてできるかよ」

先ほど壁を蹴っていた男が、割って入った。

(あ、案外話が分かる気がする)

私はかすかに安堵した。

「こんな愚民どもと、この乗村清三様が話をするという時点で虫唾が走る。

正直、同じ空気を吸っているというだけですでに汚らわしい」

(愚民あつかい!!)

私の安堵は粉々に打ち砕かれた。

「そう言うな。食事と言うものは大切だ。生命を維持するために絶対必要な、身体の機能だからな、それに」

「それに?」

「そんな本質と離れたところで死んでしまっては、面白くないだろう?」


死。


そう、ヴィクトリアの椅子取りゲームには死が隣り合わせなのだ。







私たち9人は座って、食事をしていた。


「…」

「…」


気まずい。


「食事の目的の一つに会話があるけれど、今回の食事と言う場においては、決定的に会話が存在しないね」

宋史?だったと思う男が、呟いた。

「うるさいわね。いちいちそんなこと言わなくてもいいのよ」

互いにけん制しあいながら食事をしているさなか、由衣がそれに先陣を切って返す。

「うん。でもこの状況は言うなれば気まずい。それも非常に気まずい。

だからこそ僕が先制して会話を成り立たせようと尽力しているんだよ。

それは素敵なことだと思わないかい?」

「会話をなりたたせる努力があるとはこれっぽっちも思えないわよ。このコミュ障!」

「コミュニケーションに障害がないこと自体が間違いだと思うがね。

そんなコミュニケーションはこの世界に存在しないよ」

味噌汁を飲みながら、宋史とかいう少年は続ける。

「互いに違う存在が100通じ合うなんてのは、奇跡だ。作り物だ。インチキだ。

コミュニケーションに障害がなければ、その二人の関係は一人であって同一人物に他ならない」

そう言いながら今度はお茶をすする。

「違うね。人生の三分の一を占める愛があれば、コミュニケーションの隔たりなんて簡単に克服できる」

「ほう」

横から、弘樹とかいう男が割って入る。

まぁ、よくわからないが、黙っておくほうがよさそうだ。

「ささいな隔たりは愛で解決できる。それでも解決できなければ心は暴力に走る。

それを上回るのが性行為だ。この三つの原理がある限り、存在が100通じ合うことはあり得るね」

「まぁ、価値観は人それぞれだからあまり深くは突っ込ま無いが、

君の話はそれは論理としてほぼ完全に破綻している、とは言っておこう」

「深く突っ込みすぎじゃない!?」

「ていうか、完膚なきまでに否定してるし」

私と由衣が思わず突っ込む。

「なにぃ!?」

「君のは論理じゃないんだよ。ただの自己主張だ。それ以上の言葉はない」

「…てめぇなぁ」

「あと、食事時に性行為と言う言葉を使うのは適切ではない。それは常識中の常識だ。

もっとも、このヴィクトリアで常識を問うほど自虐的な行為もないがな」


「さっきからごちゃごちゃうるせえな愚民どもがよぉ!」

この男は、自分を上級国民だとでも思っているのだろうか。

「私は愚民かもしれないですけど、民主主義の三大原理は言えるんですよっ!

立法府、行政府、それに司法府!どやぁ!」

「それは三権分立よ」

「あるぇー?」

「民主主義に三大原理はないわ。日本国憲法とかなら三大原理はあるけど」

由衣が丁寧に解説している。

「黙れ愚民!相手してると飯もろくに食えんわ」

「なら相手しなければいいんじゃないかな?少なくとも、愚民である我々に話しかけてきたのは高等遊民である清三さんの方でしょ」

宋史の煽っていくスタイル。

「前でハエが飛んでいたらスプレーをかけて殺したい気分になるだろう!

それと同じだ!」

「食事中にスプレーをかける行為が賢明かどうかは賢い清三さんにはすぐに理解できると思われますがね」

こいつは天然煽り屋なのか、いわゆる確信犯なのか。

どっちでもいいが、とにかくこいつらの会話には関わらないのが吉だと思った。


「わかりましたよ清三さん、あなたの心の声がアッー!!」

突然、予想外の所から声が割り込んできて、皆面食らう。

「清三さんはきっと優秀な成績で、周囲のみんなが馬鹿に思えてしまったんですねっ!

しかし、その実馬鹿である自分自身の、素直なこころを認められないんです!」

全員呆然としている中、その少女は続ける。

「私のテレパシーは確かに、あなたのその寂しい心を感じ取りました!

素直になっていいんです!もっと人に弱い自分を見せてもいいんです!」

キリッ!

「…」

「…」

「ああ愚民の声が俺の脳を蝕むぅぅぅぅ!!

糞が愚民どもなどに私は絶対負けないからな!」

「もっと普通の会話はできないの?」

仕方なしに、私が入る。

「この卵焼きなんか、案外おいしいと思わない?由衣」

とりあえず由衣に振ってみる。

「うーん…」

「千里さんはどう思う?」

「私は、このから揚げをごぼうでぐるぐる巻きにして食べたいわ」

しまった。

この人はなんでもぐるぐる巻きにすればいい人だ。

流そう。

「はっきり言って、味は悪くない。なのに、食べるモチベーションがわいてこないのよね」

「え、ま、まぁそうね。食事って言うのは、結局メンバーの雰囲気にも左右されるっていうし…」

由衣が呟く。

「はっきり言って今の現状では、おいしく食べれないね」

宋史もそう言った。

「食事は、この先のゲームを円滑に進めるために用意されたもの。

それを美味しくいただくことで、ゲームが有利になる。

少なくとも、私はそう思うから、楽しく食事がしたいの。

私の意見は、間違っているかしら」

「喧嘩するのも仲がいいというけどね」

「あなたたちのは喧嘩じゃないわ。各自が好き勝手暴れてるだけで、ケンカの域にも達していない。そう私には思える。だから、楽しくはないの」

「さくら姉さまもケンカ腰ですぅ」

「姉さま?」

私は嫌な予感がした。

「でも、すずは姉さまについていくですぅ」

「!?」

「よろしくなのです!楽しく食べるです、姉さま!」

ああ、取り返しのつかないぐらいの嫌な予感が…

「さくら姉さまの言うことは全く正論なのです。

食べないとこの先、きっとやってられない出来事があるのれす。

だから、わたくしすず、さくら姉さまに従うことをここで宣言するのです!

常軌を逸した命令以外はなんでも聞くのです!姉さま、よろよろしくしくです!」

なんてことだ。

「よかったじゃない。親衛隊ができたわよ、さくら」

由衣が茶化す。

「あのね、すずさん。

主従契約なんてものを、そうやすやすとするものじゃない」

「せ、説教ですか!?わ、わかったです。姉さまのいうことならなんでも聞くです」

「じゃ、その主従契約をやめなさい」

「それは常軌を逸してるです。聞かないです」

がくっ。

「熱い!鶏肉が熱いっ!こんな鶏肉はティッシュでぐるぐる巻きにして捨ててやる!

さらにそのぐるぐる巻きにしたティッシュを真綿でぐるぐる巻きにしてゴミ箱に捨てて、

さらにそのごみ箱をロープでぐるぐる巻きにして山の上に運んで、

さらにその山の木をワイヤーでぐるぐる巻きにして切り倒してぇぇっ!!」

千里さんはあまりの肉の熱さに発狂(?)していた。



結局殺伐とした雰囲気の中、食事会が終わった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ