表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

1日目01 会合

「わかるよ」


何がわかるってのよ。


「辛いことがあったんだよね。君のことは、痛いぐらいに分かる」


やめて。


あなたに、私の何がわかるって言うのよ。












行き着く場所を失った存在が、最後に訪れる場所がある。

否、『訪れさせられる』場所がある。

帰る場所のない場所へ向かう車の中で、私は一人音楽を聴いていた。


「ついたぞ」


男に言われ、私は車の後部座席から外に出る。


「ここが、これからお前たちが暮らす、ヴィクトリアだ」


男は車を走らせて道を戻っていく。

遠ざかっていくエンジン音。

それとは反対の方向から、女の声がした。

「あなたは…」


「私は氷山さくら。あなたは?」

「名前は白戸由衣。あなたもヴィクトリアの住民なの?」

「ええ、最後の廃城、ヴィクトリアに誘われたものの一人よ」

「そう…」


ヴィクトリアには主がいる。

9人の奏者が出し物を行い、勝ち抜いたものには主への挑戦権が与えられる。

そして、主に勝った時、その勝者がどんな願いもかなえることができる。

それが、ヴィクトリアに与えられた運命なのだ。


「くっそ汚い山奥だな!」

男が、そこにある建物の柱を思い切り蹴飛ばし、そう呟いていた。

「あなたは?」

「おまえらは…そうかおまえらもここにたどり着いた薄汚いハイエナどもか」

「ハイエナ?」

「そのセリフは、なんだか自虐的にも聞こえるんだけど」

由衣は億劫もせず男に切り返す。

「けっ」

男は柱をもう一度蹴り飛ばす。

「あっ、最後の一人が来ましたよ!これでみなさんそろったわけですね!」

リボンをつけた幼い少女が扉から顔を出し、そう言った。

「私、早坂幸恵です!こう見えてもテレパシーができるんですよ!」

「…」

「…」

「あっ、なんですかその目は、まるで信じてないとでも言いたげですね」

「…」

私たちが沈黙していると、その幸恵という少女は続ける。

「だったら、今ここで見せてあげましょう!

あなたの言いたいことはわかりますよ!テレパシーなんてもの、どうせこの現生には存在しない、作り物の存在だとでも言いたいんでしょう?」

「…」

「…」

「でもね、そんなこと誰に分かるって言うんです?テレパシーってあると言い切る人にとって、それはテレパシーなんです!」

「まぁ、テレパシーは置いておいて」

「置かないでください!」

「さくらさん、案内するわ」

由衣という女はそう言って、テレパシー少女を無視し、私を館へ迎え入れた。


中では、すでに集まっていた連中がそれぞれ、好き勝手に振舞っていた。

「お、メスが二人入ってきたじゃねえか!

愛と暴力とセックス!それが世界の原理!」

「わけわからないことを叫ばないでください。

その指を切り裂いてピアノ線でぐるぐる巻きにして捨てますよ」

「…」

面食らっている私に、由衣が語る。

「彼女は鏡原千里。その男は永代弘樹。このゲームの参加者よ」

「実に意味のない内容だね。ここに存在していること自体ゲームに参加していることに等しいというのに」

階段に座った少年がそう語りかける。

「彼は佐々木宋史」

「名前を呼ぶことに何の意味があるんだい。僕のことは、6代目門三郎でいいよ」

「そんな呼びにくい名前、勘弁して」

「何というか…実に個性的な面々ね」

軽い眩暈を覚えつつ、視線をそらすと、

右奥の窓によりかかっていた長髪の少女と目が合った。

「あ、私のこと馬鹿にしてますね。そうでしょ。そうなんでしょ?」

少女は、いきなりそう言った。

「それは私は馬鹿かもしれないですけど、これでも数学の等号・不等号ぐらいは理解できるんですからねっ!」

「彼女は国枝すず。まぁちょっと話しただけでわかるかわいそうな子よ」

「なにがかわいそうですかっ!

ピアニカだって弾けるからわたしはすっごく恵まれてるんですっ!」

「…実に五月蠅い」

長身の、いかにも話しかけづらそうな男が呟く。

「で、彼が後藤健司くん。この9人が集められた、ゲームの参加者ってわけね」

「ゲーム…」


ヴィクトリア。

それは、どんな願いもかなえられる場所。

そこで行われる椅子取りゲーム。

九人の参加者が選ばれ、招待される。

それを拒むことは許されない。


「そして、ゲームマスター」

部屋の隅に取り付けられた音響装置を指さして、由衣が語る。


「紹介は、これでいいかしら?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ