星屑 3
制御不能に陥りゆっくりと回転する損傷した民間船の救助に駆け付けたカストル砲艦から出てきた作業艇たちが受け止め慎重に停止させる。
そして非常用ハッチからリボルバーの弾丸のように回転シリンダーに収められた脱出ポットの回収を行う。
「調べさせた報告によりますと、船体に多数の被弾跡。砕けた破片をもろに受けたようですね。衝撃を緩和する軟鉄と受け止める鋼鉄の層を貫き致命的なのは三十六か所、大きいもので十センチ強、小さいもので五センチ程度の破片が船内にダメージを与えたようです。無数の被弾痕が繋がり連れが繋がって亀裂につながったものかと」
戦闘時でないためヘルメットは被っていないがごわごわする宇宙服を着て煩わしそうにしながら、スクロールデバイスを指先で操作し送られてくる情報を淡々と読み上げる金髪の副官女性。
その隣で男性の平均身長より一回りほど大きな体格の男性艦長が黙って報告を聞いている。
作業艇に抱えられカストル砲艦に回収されていく脱出ポット。
閉所空間でもリラックスさせ心的負荷を軽減させるガスもあり、ポットの中は救助が来たという安堵感からパニックを起こしている様子はない。
「船体の亀裂の大きさのわりには思ったより、脱出ポットの数が多いな。生存者が多くて何よりだ」
「セレスやマケマケほどの船なら千人程度の収容能力はあるかと。脱出ポットはどこの会社の何を積んでいるか知りませんが、十人から三十人程度ですから多い場合は回収するポットの数は百近くあると思います。もちろん乗客が全員が無事だった場合ですが」
救助に来た八隻のカストル砲艦の五百メートルほどある船体のいたるところにポットを乗せ、大きい船体の追加の増装を取り付けるために各所に凹凸のある装甲と脱出ポットを鎖でつなぐ。
装甲の内側にある指揮室に映し出される外の作業艇がポットを回収する映像を、腕を組んでみていた艦長は損傷した民間船ではなく暗い宇宙のほうへと視線を移す。
「船の周りには人が漂っているな」
「はい。割れた船体から吸い出されたものかと、民間船の航路がある宙域は大型デブリは完全に排除されていますから。彼らがいるためデブリを焼き溶かし装甲に傷をつけないようにするクリアランスレーザーを展開できず、この船はこれ以上はマケマケの船体に近寄れません」
「彼らの無念の表情、せめて家族のもとへと届けないな。放っておけばどこまでも漂っていってしまうな、遺体の回収はこの船でやるか! 自己や閉鎖環境でパニックに陥るものも怪我人もいるだろう、脱出ポットを回収できなくなった船から帰還するように伝えろ」
「かしこまりました。この船に積んだカプセルを他に移しあたりに漂う事故被害者の収容を行わさせます。負傷者を乗せた艦は港から病院が近い火星ラグランジュコロニーにルートを取らせます」
すぐに指示を送り脱出ポットを装甲版につけ、これ以上回収できないと判断した二隻のカストルがその場でゆっくりと反転する。
二隻は救出にあたっていた作業艇を回収し推進器をつけて、ほかの艦から離れてリングのほうへと向かっていく。
「就航して最初の仕事が死者の収容か、余っていた艦番号の船といい皆の士気が下がりっぱなしだな」
「艦長が今言ったことですよ? 戦線の後退に合わせてシンギュラリティゲートの牽引を行うはずだったのに、任務に就いたとたんに救助任務が来るなんて。救助の増援です、カストル三隻、我々の指揮下に入りました」
副官はオペレーターに指示を出し、作業艇に損傷時に船外へと吐き出された乗客の救助へと向かわせる。
ゲートへと向かう二隻のカストルと入れ違いにさらに三隻のカストル砲艦がゆったりと事故現場付近へと向かってきた。
――
ほとんどのシステムがダウンし操縦席からではほとんど何もできない、ツヅミたちが鳴り響くアラームへの対処をしていると船内と通話する内線とは違う受話器が鳴り出す。
それは船外とつながる通信機器で半分慌てる感じでツヅミは受話器を取った。
『こちらカストルk4444。民間船マケマケ223、聞こえていますか? マケマケ223、操縦席は無事ですか? こちらは現在、脱出ポットの回収を行っており……』
受話器の向こうから聞こえてくる女性の声。
落ち着いている声に苛立ちを覚えながらもツヅミは用件を伝える。
「通じた!? こちらマケマケ223、至急救助を求める。こちらはデブリの衝突で損傷、船のシステムがやられて行動ができない。推進器の異常値は何とかし爆発の危機は去ったが……」
『はい、落ち着いてください我々はすでに救出、事故犠牲者の回収を始めております。回収した脱出ポットを随伴艦に乗せてゲートを通り、火星ラグランジュコロニーへと移送しております。移送中に生存者と犠牲者の確認をしますので乗客名簿を転送していただけますか。こちらで会社のほうへと連絡をつけておきましょう』
「今、名簿を送る! 救出した乗客。……と死者の情報をこちらにも送ってくれ!」
『わかりました、確認の取れた乗客の情報を共有します。あなた方も脱出ポットのほうへと移って下さい。それでは』
最後のアラームも止まり副機長は水を飲みツヅミの横で大きくため息をつく。
交信が終わり受話器を置くとスクロールデバイスを握って祈り手を合わせるツヅミ。
何度も連絡を取れど不通と残る通信履歴。
家族と撮った待ち受け画面。
「二人とも無事でいてくれ」
副機長はベルトを外し席を立つと出入り口を確認しに行く。
「脱出はほぼ終了し乗務員も避難を始めました。行きますよ、ツヅミさん」