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来破滅星の世界 青い星を焼き焦がすもの  作者: 七夜月 文
一章 果てより現れ戦いをもたらすもの
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星屑 2

 衝突から十分ほどたち強い衝撃の後、頭を打って気を失いツヅミは頭を押さえながら数種類の警報が鳴り響く操縦席を見回す。

 非常時でも電機が確保され明るい操縦室、その壁にある船体と船内の状況を知らせる無数のランプが赤一色に染まり点滅を続けていた。


「何が……起きた?」


 気を失っていたのか今に至る前後の記憶があいまいでうまく頭も回らないツヅミはハーネスを付けていた肩と腹回りがずきずきと痛みが走る。

 それでもツヅミは自らの仕事に戻ろうと焦点の合わない目を、メモリが振り切っているか微動だにしない計器へとむけ船の状態を確認しようとした。


「船体に無数のデブリが衝突……、船体の至る所で空気の漏洩が起きています。ダメージが大きくほとんどのシステムがダウンしていてここでは現在の船の状況もよくわかりません」


 副機長は分厚いマニュアル本を浮かび上がらないように強く握りページをめくって計器を操作している。

 しかしそれでも警報の大合唱は止まらず、ツヅミの声を聞いて副機長は一度顔を上げたもののすぐにページをめくる作業に戻った。


「すぐに、乗客の避難を……。コロニーに救難信号を……」

「もう出しました、すでに動けるものは乗客を脱出カプセルへと避難させています。ただ姿勢制御ができず船は回転を続けていて、カプセルを安全に外へと放出できません」


「この変な気分は、船が回転しているからか」

「船が大きく揺れた際に、頭が揺さぶられたからかもしれません。じっとしているべきです」


 警報に交じって船内各所につながる内線も鳴り響いており、発信元の通知は船の至る個所から。

 時折不自然な振動が発生し、その揺れで酔わないよう座席に固定されているハーネスを緩めてツヅミが空間を作っているとふと頭の中に家族の顔が浮かぶ。


「俺の家族は……どうなった、無事か? 避難できているか?」


 一瞬、副機長の動きが止まるがすぐにマニュアルに書いてある文字を視線でなぞりだす。


「ツヅミさんはご家族がこの船のどの客室にいるか、知っているんですか」

「いいや、……今日この船に乗るということしか聞いていない。チケットは空いている席を譲ってもらっただけで番号を、読んでいない。だが、安否が、気になる、妻と娘がどこにいるかわかるのか?」


「それは……わかりません。船は今、パニックの真っ最中で、鳴り続けている内線もどれも避難誘導に離れた乗務員の代わりにやってきた乗客からのもので。……ですがまずはツヅミさん、怪我人ですがひとまず機長としての務めをお願いできますか。頭の手当てをしてからでいいですから」


 ツヅミと目を合わせることなくマニュアルのページをめくる副機長。

 頭巾と響く頭の痛みに操縦席の隅についている身だしなみを整える鏡を見ると、赤いものがツヅミのこめかみのあたりに垂れてきていた。


「そうだなまずは乗客の安全か、無事なら二人もそこにいるはずだしな。それで、緊急マニュアルはどこまでやった」

「連絡の取れる乗務員の点呼、船内の使える通路から格納庫への道を伝えて乗務員への避難指示、船体の破損条項の確認と破損した動力炉の切り離し、コロニーへの救難信号。船内放送はトラブルで機能せず、乗務員に避難誘導とともに現状わかっていることだけの説明を。あとは船体の安定と脱出ポットの射出、救助隊に船内の減少の報告をするくらいでしょうか。今は船体の回転を止めようと何とかしているところです、システムのほとんどがダウンしてしまっていて」


「わかった。もうほとんど終わっているんだな」

「頭を打ってツヅミさん十分ほど気を失っていましたから。救助されたらしっかり検査受けてください。頭の怪我はシャレになりませんからね」


「気を失っていたなら起こしてくれ」

「起こしましたよ、五分ほど。頭を打った際は揺さぶってはいけないし呼びかけしか、返事がないから死んだかと思ってました」


「そ、そうか。とりあえず残りを済ませよう妻と娘が心配だ。早く終わらせ迎えに行ってやらないと」

「ここじゃ連絡もできませんからね」


 警報が鳴りやまない中、二人は淡々とやるべき作業をこなしていく。






 ――




 衝突事故から二時間、シンギュラリティゲートを抜けて八隻のカストル級砲艦が冥王星起動に出てくる。

 八隻の進む先には不運な事故にあった民間船があり距離をとった位置で停止し様子をうかがう。


『救助対象は民間船、マケマケ223。定期報告の交信電波を探知され戦艦級が四隻、冥王星コロニーを狙って移動。三隻は戦闘区域で仕留めるも特大型の戦艦級が戦域を抜け、シリウスS1001を旗艦とした追撃部隊がこれを撃破するものの、砕けた破片が民間船に直撃したようです』


 オペレーターの報告を聞き、寝転がるように無重力化を漂うカストル砲艦の艦長は腕を組んで笑う。


「このあたりにも戦艦級が来たか。はっはっは、全然怪物の進行を食い止められないな!」

「もう冥王星コロニーの避難は始まっています。ついに人の住む星の近くまで接近を許してしまっている非常時なんですよ。艦長は口を開けば失言しか出てこないので黙ってください。この事故で多数の死者も出ているんです」


「そうだな非常時だな。まずはミキサー車みたいに回るあの船の回転を止めよう、そしたら周辺のデブリから引き離して正常者の救助だ。とすればあの船のダメージは大きい、無理に止めようとすれば割れるな、損傷の少ない艦首と艦尾をつかんで止めよう」

「了解、作業艇を。合図で船の回転と逆噴射し回転を止める。その後脱出ポットの回収だ」


 ゆっくりと回転する民間船へと近づき、船体後部から作業用の小型艇を発艦させる。


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