月のない夜 5
「ポールスター確認、上にボラリス、下にサザンクロス。左右確認、衝突の可能性のあるものなし」
「問題なく、発艦出来たな」
「だな」
乗っているのは小さな石片に当たっても壊れないよう最低限の装甲化としばらく単独行動できるよう推進剤の増槽のついた作業艇。
人がわずかに行動できる狭い空間の隣は上下も掴まるものもない広大な黒の空間。
『攻撃は二度、一度目は彗星攻撃後にケイロン艦隊へと向かってください、その後再攻撃時には彗星攻撃後こちらに戻ってきてください。攻撃は二度、行きと帰りで本作戦の攻撃は終了となります』
無線では作戦内容を改めて確認する通信が流れている。
アカツキは隣で微動だにせず前を向き続けているクルックスに話しかけた。
「発射の勢いで気絶していないよなクルックス」
「ああ、大丈夫だ、通信を聞いていた。発射時のあの加速にも訓練で慣れている、加速させる、揺れるから、何かに掴まっててくれ」
アカツキの声に反応するようにクルックスは動き出し機材を操作し始め、スラスターを動かし作業艇は加速し始める。
「すげえな、あれは訓練航海でも何度か経験したけど全然慣れねぇ。ああ、まだ少し頭がくらくらする」
「血が偏ったんだ。こちらも、予定進路を進んでいるから、することがない。貨物が見えてくるまで、少し休んでいるといい」
「まぁ俺もすることないしな、通信でも聞いているか。まだ艦体同士のやり取りくらいなら聞こえるだろ」
「ラジオではないのだがな。なぁ、アカツキさん、あれが彗星か」
アカツキは作業艇の小さな窓から進む先を覗く、進行方向に白く尾を引く彗星が見えた。
多くの者を殺し経済に打撃を与え、そして大切な者の命を奪った忌むべき彗星は、遠く離れた太陽の光を受け神秘的な輝きをしている。
彗星はまだ遠く小さいがその周囲でチカチカと小さな瞬きが見え、遠くにひどく損傷したカストル砲艦らしき残骸が見えた。
「の、ようだな」
「あれは第一世代か、上部構造物に、隕石が刺さっているな。衝突したのか」
「小型と言われる奴だろうな、あれの攻撃で俺の父さんと友人が死んだ」
「そうか、つらいことを聞いたな」
カストルの残骸を通り過ぎてしばらくし、前方に作業艇より先んじて放たれたコンテナが見えてくる。
コンテナの中身は核爆弾、彗星の表面に生える瘤のような砲塔やキノコの傘、その他に砲撃でらった岩石片を吹き飛ばすため。
「さぁ、仕事だな作業艇をコンテナに近づけてくれ。拾ってくる」
「ああ、振り落とされるなよ。私らの担当する、ビーコンが出ているコンテナに近寄る、違うコンテナを拾わないでくれ」
「ああ、訓練で死ぬほど怒られている奴がいたからよく覚えいる。宇宙服を着ていたから、怒られていたやつの顔は知らないが」
「ああ、あれはダンゴだ」
作業艇より先に撃ち放たれ漂うコンテナへと近寄る。
コンテナには連結器がついており作業ドローンを放ちアームを操作して作業艇へと引き寄せた。
そしてアカツキは作業艇の船外へと出て連結を確認する。
「つなげたか?」
「しっかりとな、次を頼む」
コンテナを複数、最終的には作業艇の後ろに十程度のコンテナを引き連れすべて拾い集めると彗星へとむけてさらなる加速を始める。
周囲では同じようにコンテナを連結させて列車のようになった作業艇がいくつか見えた。
「さてだんだんと大きくなってきたな彗星」
「そういえばだが、あの彗星から延びる白い帯に、当たったらどうなる」
「攻撃ではないからあれ自体は塵やガスだったと思う。でも攻撃で飛び散った岩石片や戦艦級が潜んでいるからあの中を通って彗星に向かうことはできないぞ」
「こう見る分には、彗星もきれいだなと思っただけだ。子供らにも見せてやりたい」
「携帯端末で写真などを取ることは禁止されていなかったはず」
「スクロールデバイスなど、使わないと思ってロッカーに置いてきた」
「俺もだ、高いから無くしたくはなくてしまってきた」
チカチカと瞬く彗星へと向かって進み静かな時間を過ごしていると、ダンゴたちの乗った作業艇が合流し通信を行ってきた。
接近しすぎると事故を起こす可能性があるためその距離はキロメートル単位で離れていて、遠くにコンテナを引き連れた細長い影が見える。
「よぉ、発進の瞬間、ロボット物の出撃シーンみたいで楽しかったな! このまままたしばらく彗星に向かって行くだけか」
「そうだ、またしばらく、何もしない時間が過ぎるな。もう艦隊の通信も聞けない、静かな時間が過ぎるな」
「宇宙での生活はいかに長い時間を有意義に過ごせるかとか、まぁ楽しくだべってようや」
「緊張案がないなダンゴは、もう数時間もすれば彗星にこの核爆弾をぶつけるんだぞ」
「でも直接バババと何かを撃つわけでもないし、彗星の反撃が来る前に逃げるんでしょ? スワはずっと震えているけど、おまえダイジョブか?」




