鉄塊乱舞 10 終
合流せず先を行くその艦隊を追いかけた。
ミヅラは背後を映しているモニターを見るが、破片はどこかへと飛び去り今さっきの戦闘がなかったかのように暗い空間がただ映っている。
『ゲート到着まで、十五分』
「ゲートが近い、負傷者をポットへと移しシリウスとカストルに引き渡す時間はないな」
モニターに映っていた小さかったゲートはだんだんと形をはっきりとさせていきその周囲でゲートを運び護衛する艦隊が見え始めてきた。
逃がした艦隊から戦闘の報告はなく、広がって索敵を行っているコールサック警邏艇たちからも新たな敵の報告はない。
「安全にゲートを通過できそうだな。先に逃がした艦での負傷者は?」
『それほど数はいません、それも皆軽症だそうですぐに大事になるものはいないと。損傷艦に乗っている民間人に多少の混乱はありましたが怪我人はいないとのこと』
スクロールデバイスと同じ丸く折り曲げても割れない画用紙のような薄さのシートモニターは、先の戦闘で張り付けられていた壁から外れ電源コードとつながり重力のない艦内で旗のように揺れていた。
指揮室内に散らばったそれらを拾い上げ戦闘が終わり射撃管制室と仕事を分担し手の空いたオペレーターがたちが壁に張り直していく。
「わかった。近くの運搬中のコロニーで修理を受けられそうな港はあるか?」
『艦の損傷率は四十パーセント以上、応急での修理は艦隊に復帰できるほどの修理は不可能かと』
「そうか、ではコロニーに設営された基地へ報告だ艦隊を送り届けたのち我々も修理を受けに冥王星区域から離れる。砲塔をもがれ推進器も破損した、戦闘も牽引もできそうにはないからな。ああそうだ、安全を確認できた区域から空気の供給を開始宇宙服の着用を解除、我々も動きづらいこの服をさっさと脱いでしまおう」
『こちらが今把握できている艦内の様子です。冷却水の漏洩のせいで艦内温度は二十六度にまで上昇していますね』
奇麗に壁に張り直された複数枚にわたってモニターに改めて映される艦内は、隔壁で細かく区切られ階層ごとに写されていた。
そのほとんどが損傷を表す黄色、橙、赤、灰色に塗り潰されている。
「ひどい有様だな、灰色の部分は欠損か艦内に貫通したと言っていたものな。蟻の巣のように複数通路がなければトイレへの移動もままならず港に着くまで宇宙服を着用し付けなければならなかったな」
『ニ十か所以上あるトイレも現在使用可能なのは右舷下層の六ヶ所です。残りは冷却液の漏洩などで排泄物の凍結がうまくいっていません、臭いやそのものの逆流の恐れがあります』
「うむ、艦内放送でしっかり伝えておいてくれ」
戦闘がないと館内では平和に時間が過ぎていき損傷艦はシンギュラリティゲートを潜り抜けていく。
千メートル以上のくすんだ白色のリング状の建築物で、別のゲートと空間をつなぐ輪の内側と管理者や彼らが使う作業艇の発着場などがリングの外側に向いて建設されている。
『シリウスS1001より通信、ここまで護衛感謝すると』
「最後は、こちらが守られてたのだがな」
リングの内側にはこことは少し別の景色が映っていてシリウスたち損傷艦らがくぐり抜けると、巨船はもうこの場にはおらず構造物の向こう側には影も形もなく消えていた。
「無事送り届けられたか」
『はい、護衛任務の完遂を報告します。あとは基地司令からこちらの撤退許可が下りるのを待つだけです』
「索敵に当たっていたコールサックたちを解散させろ。護衛任務も終わったしもう必要はない」
『了解しました』
損傷艦の護衛についていた第二世代はゲートをくぐらず、巨大な建造物の横を通り抜け先に行かせていた部隊と合流する。
いくつかは攻撃を受け装甲版に凹凸のあるものが何隻かいた。
「基地からの指示は?」
『いまだありません』
ミヅラが座席でため息をついていると指揮室に副艦長が戻ってくる。
首に包帯が巻かれ腕はプロテクターのようなものを付けられて、体に巻き付けるように包帯で固定されていた。
「すみません、ミヅラ艦長ただいま戻りました。ご迷惑をおかけしましたね」
「もういいのか? 怪我の具合は?」
「強く体を撃った時に摩擦で首の後ろの皮が捲れたのと右腕を少し折りました、補強と痛み止めをもらい何とか。変に曲げなければ痛むこともありませんから」
「休んでいていいぞ?」
「すでに満室で、私は横にならなくても良い症状でしたから戻ってきました。帰還の許可は出ましたか?」
「今それを待っている。おそらく私は座乗艦を変えるだろうけど、君はこのままこの艦とともに帰れ、さすがに負傷しながらの戦闘指揮は無理があるだろう」
「そうですね、申し訳ないですがそうさせていただきます。もう戦闘もないでしょう私がここを預かります、シャワーを浴びてきてはどうです?」
「んー、どこか使えるシャワー室はあるか?」
半日待ちようやく許可が下り怪我人は大きなダメージを受けたプロキオンp1020へと移しミヅラは艦隊の指揮を執るため無事な別の船へと乗り換える。
同じく大破したベテルギウスb0172とともにゲートへと向かうため合流した艦隊を外れていく。
「それでは、怪我が治ったらまた会おう」
『はい、それではまたともに戦える日を』
彗星の破片からの襲撃を受けミヅラの死亡が通達されるまで、それからあまり時間の立っていないことだった。
少し推敲をし、二章を開始します。
わずかに間が開きます




