鉄塊乱舞 5
『敵戦艦級、一斉に進路を変えました』
「コールサックに気が付かれたか? 引かせるか」
『ミサイル到達まで五分』
『敵戦艦級からエネルギー反応、ミサイルの迎撃をしているようです』
オペレーターの報告にミヅラと副艦長は始まった戦闘にモニターから目を離さず、マーキングされた敵のアイコンを見続けている。
「エネルギー量が減ってくれるなら、その後の戦闘が楽になるからそれはそれでいいんだが。せっかくのミサイルが撃ち落されるのも嫌だな」
『人の命には代えられませんからね。それに外付けコンテナが攻撃を受ければ誘爆するといいましたねもとよりもしもの戦闘時に惜しみなく使う武装でした』
モニターを眺めミサイルの着弾を待つ。
「全砲塔、攻撃準備。ミサイル着弾とともに攻撃する」
『ミサイル着弾。すぐに戦果を確認します』
レーダーに映るアイコンの動きを眺めつつ報告を待つ。
『核のミサイルと違って爆発後にレーダーへのノイズが少ないのも利点です』
「さて、いくつ破壊した?」
モニターの画面の中で戦艦級の攻撃である白い胞子の束が黒い画面にまっすぐな線を引き、その後小さな光がぽつぽつと瞬きミサイルの戦果はどれほどのものかオペレーターの報告を待つ。
『……それが、四十すべて健在、です』
「ミサイルがすべて落とされたのか?」
『今確認中、画質が荒いですがコールサックより望遠カメラの様子、映します』
拡大される画像は荒く細部はブロック化していて潰れてしまっているが、それでも大まかな形をとらえられるようになった。
戦艦級と思われる長細いシルエットの奥に二回りほど大きな塊が見える。
「周りの戦艦級が小さく見えるな」
『宇宙では大きさの尺度になるものがほとんどないですからね』
「では、艦隊に連絡攻撃開始。主砲全問斉射! 有効とされている、一分間射撃! 最優先は砲撃型と未確認の大型! その後様子を見て再び攻撃を開始する」
『未確認の大型はわざと残し、今後のため攻撃手段などの確認を行うこともできますが』
「そんなリスクが高いことができるか、我々の目的は損傷艦の護衛だ!」
『冷静ですねよかったです。戦いに飲まれ損傷艦の存在を忘れているのではないかと思っただけで、失言失礼しました』
オペレーターが戦闘指揮室へ連絡を取りレールガンによる砲撃が開始された。
砲撃でわずかに船体が振動する。
さらに画像は拡大されて行きながら画像の処理をされ、その表面に何やら網目状の何かがかろうじて確認できた。
網目状の物体は小惑星の表面を覆いそれを押しのけキノコの傘や砲台の瘤が生えている。
「ふむ? 岩の表面がメロン見たいになっているな、見たことのない形だ、とりあえず画像は付近のコロニーの基地へと報告。その後の集めた情報も逐一基地へと報告をしてくれ」
『表面に菌糸を網上に張って強度を増しているようですね。新しいことです、亀裂が入っても自然に崩壊しないようにしたのか。新型に加えて、これは彗星本体との戦闘がまた厄介なことになる』
映像は戦艦級が進行方向を変えないまま体の向きを変えた、同時に小さく映る戦艦級と砲台型の瘤が膨らむのが見えた。
「砲撃を察知された? 奴らはこっちに来るか?」
『いいえ、増援に向かわせたコールサック艦隊を狙っているようです。あ、コールサックに向けて攻撃を開始しました!』
「ならコールサックを引かせろ、多少レールガンの命中精度が落ちるのは仕方ない」
副艦長がオペレーターとの通信に割って入る。
『ミサイルが不発に終わってもまだ有利攻撃ができるチャンスがあります』
「ああ。あの巨体が何だかわからないが最優先で壊す。こっちに注意が向いたらコールサックを巨体の核ミサイルを……」
『核はそれほど数はありません。どこでも戦闘のたびに大盤振る舞いしすぎた代償です。今回の艦隊で核ミサイルの数は十本、他の艦隊とも分配され向かわせたコールサックが撃てる数は三本です』
「確認不足だったか。だがあの大きな塊さえ破壊できればいい、レールガンの砲弾が網で覆われた戦艦級と砲台型に通じるのはわかった」
『わかりました。コールサックへ指示を』
副艦長との会話で忘れられていたオペレーターが報告のため声を張った。
『もうじき砲撃、当たります』
『ちゃくだーん!!』
高速で放たれたいくつもの砲弾が一瞬の閃きとなり小惑星に降り注ぐ。
膨らんでいた瘤が弾け不規則な回転を生み、その隣で別の岩の塊が砕ける。
『砲台型二つと戦艦級八、破壊』
「いい感じだな、次の攻撃からは撃ち続けよう。砲身の寿命がある分無駄撃ちを控えるよう言われているが損傷艦を守るため少し過剰くらいで攻撃する。砲撃準備。それで最初の攻撃で敵はこちらに来たか!?」
『いえ、進路そのまま向きはコールサックを向いたまま砲撃を続けています!』
「我々へと向かってこないな? こちらの実態弾でちまちま攻撃していけば割れるだろう。砲撃型ではないから反撃の危険性はない、よし攻撃指示撃ち続けろ!」
ミヅラの隣で副艦長はモニターに映るアイコンを見続けた。
『並走……?』
副艦長はうつむき何かを考えるとミヅラの方を向いて声を張り上げる。
『ダメです! このまま進ませると我々と同じ場所に行きつきます、敵の狙いはおそらくシンギュラリティゲートです!』
「ゲートとの連絡はしばらく行っていないはずだが? コロニーですらこちらからの一方的な通信で……」
『今までの何度かの襲撃で情報のやり取りのための通信か何か、何らかの方法で』
「確かにこのままにさせておくにもいかんか、ゲートに向かって行くなら止めなければ。損傷艦も大事だがゲートが壊されてしまったら我々は補給もなく孤立してしまう。最大出力で広域通信、仕方がないがこちらの居場所を無効に知らせ戦艦級をこちらへと呼び込む」




