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鉄塊乱舞 2

「いいえ、先の戦闘で損傷した艦を修理工場への護衛です」

「シンギュラリティゲートはすぐそこじゃないのか? 護衛する必要があるか?」


 ミヅラの隣に座っている副艦長が口をはさむ。


「ゲートの損失は人類の損失と我々の退路の損失になるため、優先して安全な場所まで運んでいるのです」

「このコロニーと一緒だろう、少し先で安全な場所へと運んでいる」


「大勢が乗り宇宙航行する船が数百メートル程度の大きさに小型化できているのはゲートで補給と整備が容易であるから、ゲートがなくなれば加速に必要な推進剤はすぐに切れ食料も一年と持たずなくなり……」

「わかったよ」


「我々が合流したときはまだ近くにゲートがありましたが、戦艦級の接近が予測不能となったため二週間ほど前に最優先で運ばれて行きました。ですから、もうこのあたりにはありませんね。そのため早い速度で移動するゲートを追いかけるため、それに追いつくためにより多くの日数がかかり損傷艦が戦闘に巻き込まれないよう護衛が必要なのです」

「そうか、来るときは向かってくるコロニーを迎えに行く感じだったが、今度は運ばれていくゲートを追いかける必要があるんだったな」


「はい。そのため、戦艦級と遭遇する可能性もありますが戦闘の際は近くにある他コロニーの運搬を手伝う艦船から援護もしてもらえる安全な仕事です」

「それで、護衛する損傷艦は何隻だ?」


「十四隻。航行能力を失ったシリウスやメラク、艦種コイルガンを損傷したカストルや指揮室を撃ち抜かれた例のシリウスですね」

「ああ、ヨドさんか。あの人には世話になったんだが、また会うことはかなわなかったか。残念だ」


 知人の死に寂しそうに呟くミヅラの話に副艦長が首をかしげた。


「シリウスの艦長にお知り合いが?」

「五年ほど前にオペレーターとして乗艦していた。お子さんの双子の兄弟とは学年は違ったが同じ星軍の士官養成学校だったな。ヨドさんの乗っていたシリウスは古い船で、元が民間船らしくどこか生活感のあるなんか落ち着く船だった」


 目尾を閉じまだ新しい記憶を思い出しているとどこからか視線を感じて目を開ける。

 そこでオペレーターが返事を待っているのを見て指示を出していないことを思い出し、一つ咳ばらいをしてオペレーターに指示を出す。


「話がずれたな、要請に従う。時間と航路の情報を随伴艦に、戦闘指揮室にも共有。艦内放送は任せる」

「了解」


 それから少しして大型モニターに護衛任務の詳しい情報がモニターの一つに映される。

 時間数などの書かれた文字だけの画像、移動ルートや随伴艦などを図解した画像、そして損傷艦の今の状態を映した画像。

 それらをざっと目を通し副艦長が口を開く。


「どうやら、損傷艦に民間人を乗せて避難するようですね。損傷艦の中に推進器が損傷し速度の出ない艦もありますね。ゲートのまでは推進器の壊れた艦の速度に合わせ常に加速を続けて慣性航行がないまま六時間ですか。ですがこれは損傷艦でない船の場合の計算、実際はもう少しかかるでしょう。我々はゲートまでの護衛のようです」

「良かった、コロニーに残された者らも救助される時が来たか。しかしコロニーにいる民間人すべてではないだろうな。戦艦級がどこから来るかわからない以上気は抜けない、損傷艦は戦闘に参加できないが数は多く民間人が乗っている。戦闘はないかもしれないが気を引き締めないとな」


 移送中のコロニーで応急修理を受ける艦隊。

 モニターには推進器が破壊され他の船から交換を受けている船の画像や艦首のコイルガンを根元から折られた船などが映された。


「知っての通りシリウスやカストルは攻撃に脆くすぐに沈みます。この船がすぐにカバーに入るとしても間に合わず一撃もらってしまえば犠牲者は出るでしょう。コールサック警邏艇には念入りに哨戒をしてもらわないといけませんね」

「うむ。では、仕事の前にひとっぷろ浴びてくるかな。副艦長、ここを任せてもいいか?」


「自分は今休憩中ですので、ダメです。権限がありません」

「でもでも、ほら今こうして指揮室で暇しているわけだし、疑似重力があるうちじゃないとシャワーを浴びられないからさ。戦闘が始まってしまうと戦闘が終わってもしばらく事後処理で指揮室に私は缶詰だ。肌が荒れる、わかるだろう」


「そうですね。コールサックが周辺を調査しはぐれ彷徨っている戦艦級などがいないかを調べ、ようやく戦闘状態が解除できますからね。どこから敵が来るかわからないのに目が見えないなど、落ち着けるわけもなく、つい先ほども別の運搬中のコロニー付近で戦闘があったばかり。ゆっくり休む時間もなく髪も肌も心もボロボロです」

「だから少しの間だけこの場を指揮してくれないか? すぐ体と髪を洗ってくるから」


「ダメです、艦長自ら規則を破ろうとしないでください」


 話を切り上げ副艦長は席を立ちあがると、伸びをして艦長席に座るミヅラに一礼し指揮室を後にしようとする。


「それでは、お先にお風呂いってきます」

「意地が悪いな」




 ――




 それから半刻ほど過ぎて副艦長は戻ってくる。

 指揮室を歩き壁に張り付くシートモニターの一枚を引きはがしミヅラの前へとやってきた。


「民間人を救助すると言っていましたね。情報が更新されています、損傷艦にはおよそ千名ほどの民間人が乗っていて木星ラグランジュコロニーへと運ばれるようです」

「大きな船とはいえ損傷艦は居住区画にも穴が開いているだろう、そもそも複数隻いてもシリウスなどにそれほど乗れたか? それとも戦闘はないから乗組員のほとんどを下ろしていくのか? 通路にも人がいるというのなら艦内での活動に支障が出るだろう」


「倉庫にあるコンテナをすべて下ろして、代わりにほとんどの者を救助ポットに乗せたようですね。救助するのは他コロニーへと自力で非難する貯金もないようなレベル一居住区画の人々、知っての通りやけを起こして連日暴れまわっているような一般市民ですし、中で問題でも起こされたらたまったものではありません。救助ポットなら少ない人数で隔離できますし、沈静ガスもあります妥当でしょう。倉庫の荷物を降ろしたということはその分食料や水はあまりないでしょう、シンギュラリティゲートがあるからできるハイリスクな行動です」

「なんにしろ民間人を乗せている。絶対に接敵してはいけないな」

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