迷い星 7
航海中のシリウスの倉庫でアカツキは重たくごつごつとした宇宙服を着て作業艇を操作し、隣で同じく宇宙服を着て倉庫内に立つナキリに大声で指示を受けていた。
アカツキたち二人の乗る作業艇はシリウス砲艦の緩やかなカーブによる疑似重力下で、推進剤を吹かせホバークラフトのように床を滑るように移動しナキリの指示で倉庫最奥へと向かうと停車し下車する。
『ほらどうした、早く来い! 休んでいる時間はないぞ!』
「待って宇宙服が、疑似重力下で重い動きずらいんですけど」
疑似重力下で重くなった宇宙服の体をもろともせず、作業艇を降りたナキリは壁のほうへとノシノシと歩いていく。
アカツキが働き始めてから何日もたっているがその間一度も移動させているところを見ていないコンテナが並ぶ倉庫の奥、そのコンテナの奥には壁の奥にはもう一部屋あり艦首から延びるコイルガンの根本がある。
『言い訳はいい、手足を動かせ! 今日のノルマが終わらんと明日の仕事がつらくなるだけだぞ!』
「ちょっと、待ってすぐ行きますから」
作業艇から下りたアカツキがガシャンガシャンと重たい脚を上げ先にすすむナキリの後を追った。
『そのための宇宙服一体型のパワードスーツだろ、ちゃんと歩け。ところでお前は何で疑似重力下で床とのマグネット吸着機能をオンにしているんだ! それは何の罰ゲームなんだ、今どきの若者の中で流行っているのか!』
設定をオフにすると足にかかっていた宇宙服の重さは消えて軽くなり、アカツキは走ることはできなくても早足でナキリに追いつく。
「ここらに置いてあるコンテナって何が入っているんですか?」
『修理用の資材だ。装甲、通路、替えの計器そんなのだ。この船が攻撃を受けなくても他の船の修理用に渡したりもするからな。戦闘が始まらない限りはそうそう触らないコンテナだな』
背後に気配を感じアカツキが振り返ると今まで別々に作業していたほかの作業艇が停車しておりナキリたちの向かう壁の前で何やら待っている。
「すみません。作業艇で振り落とされないようにするための設定のままでした」
『ガションガションと奇怪な歩き方で仕事中に遊んでいるのかと思ったぞ! もうすぐ演習だ、今日はコンテナの整理ではなく砲弾の込め方を教える。と言っても打つのは演習だけで流れだけだがな、もうすぐ演習だしっかり覚えろよ!』
「頑張ります」
『具合でも悪いのか、腹から声出せ!』
「頑張ります!」
ナキリは通信で扉を開けるように指示を出すと、ゆっくりと分厚い壁が開き奥へと行けるようになる。
奥はエレベーターとなっており四角い部屋、待機していた作業艇がアカツキたちを置き先に扉の奥へと滑り移動していく。
『アカツキ、お前は歩いて奥に進みエレベーターのコントロールパネルの前で待っていろ。わからなくても進め!』
「コントロールパネル? わかりました」
扉の奥は段となっていて幾分か高くなっておりナキリが作業艇へと戻り奥へと進ませ上に上がるエレベーターへと運ぶ。
ナキリの指示に従いコントロールパネルを操作すると、コイルガンの発射台となる円形状の巨大な装置が存在する砲室へと上がる。
扉が開くとアカツキは作業艇とともにエレベーターを降り部屋を見回す。
広いが無機質で圧迫感を感じる明るい部屋、柱のように並ぶ砲弾、大きなコイルガン設備。
『ここがコイルガンの砲室だ、向こうに並んでいるのがメインの砲弾ベトン弾。そギラギラしたこの機械の塊みたいなのが観測衛星。あっちのつるっとしているのが振動爆弾のクエイク弾だ』
「すごい大きさですね」
『彗星を砕くには威力が足りないがな』
部屋を囲むように作業艇より少し大きく運搬していたコンテナとほぼ同じサイズの巨大な砲弾が壁や床に鎖で固定され並んでいた。
「なるほど」
『お前も作業艇乗れ、砲室内を案内する』
まず艦首砲の前へと移動すると砲弾を込める装置の前で止まる。
その箇所だけ重たいものが何度も擦れた跡が残っている砲弾と同じくらいのサイズのものが引っかかる程度の窪みがあった。
『ほかの作業艇と共同で砲弾を運搬し床のくぼみに砲弾を転がす。大昔の大砲と違い、炸薬は使わないから運ぶのは砲弾だけだそしたら砲弾の背後に回って押し込む。砲弾には前後がある線が引いてあってマーキングされているから間違えようがないが、たまに間違えるやつがいる。……ああ、いやあれは貨物船の時だったか。まぁ、なんであれ前後を間違えればうまく機能しないし壊れる原因にもなる。演習の時にお前たちにやらせるが俺に恥をかかせるなよ』
「りょ、了解です」
太い鎖に巻かれて壁に固定された砲弾。
壁にいくつもの穴が開いており砲弾がその穴一つ一つに収められている。
『こっちが砲弾、固めた砂利の塊にコイルガンで撃ち出すための金属のベルトのフレームに軌道修正用のスラスターが付いている。俺らは撃ち出すだけだから覚える必要はないな、さっきの窪みに前後を間違えず配置できればそれでいい。よし次だな』




