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来破滅星の世界 青い星を焼き焦がすもの  作者: 七夜月 文
一章 果てより現れ戦いをもたらすもの
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戦いをもたらすもの 2

 ほかの乗客も乗り込んできて発車時刻になると列車は動き出す。

 駅を出てすぐにほどんど直角に近い角度で車両は壁を登りだし、足元ではなく背中側にかかる重力に初めてこの列車に乗ったであろう子供が何人か不安で両親に縋り付いたり泣き出していた。


「途中で落っこちたりしないだろうね」

「これはジェットコースターじゃないよ母さん」


 長年をコロニーで過ごし外に出なかった大人たちもほとんど垂直に壁を登り始めた車内で顔をこわばらせ、座席の固定バーを強く握ったり深呼吸をしたりしている。


 壁を伝って空へと向かって静かに走る列車は曲がり角も停止信号もなくまっすぐ一定の速度で走っていた。

 列車の窓の風景を映す小さなモニターからは、ほぼ直角に上っていることもあり空の向こうに町と自分たちがさっきいた町が窓の左右に見えている。


「アセビはずっと寝てるか?」

「うん、泣きつかれたみたい。もう少しだけ寝ててくれるといいんだけど」


「家のこととアセビのこと、フトには迷惑かけるな」

「このご時世じゃ、星軍は忙しいからね。私もアセビが少し大きくなったら戻るように言われてるし」


 眠っているアセビの頭をなでフトは軽く笑う。

 移動中は席を立つこともできず十五分ほど座席で目をつむるか小さなモニターを見るかして過ごし列車は目的地へと到着し停車した。


 座席の固定バーがあるおかげで無重力化でも座席から投げ出されることもなく列車は停車する。

 ふわりと浮かび上がる後ろ髪を束ねアカツキたちの母ミホはため息をつく。


「重力がないこの感覚は慣れないもんだね。そういえばアカツキは宇宙遊泳苦手だったね大丈夫?」

「それは中等部だった頃! 星軍に努めてるのに宇宙遊泳できなかったらやってられないから」


 母の言葉に顔を赤くして返事を返すアカツキ。

 順番に席を立つようにアナウンスが流れ、乗客たちはバーを上げ荷物を固定具から外して席を立つと手すりにつかまり出口へと向かって移動する。


「やれやれさっき座ったばかりなのにもう移動かい。このまま、星まで行ってくれればいいのにね」

「これは宇宙船じゃないからむつかしいなぁ。さぁ、母さん乗り換えるよ。次の列車が上がってきたら混雑するから、俺につかまって」


 荷物を持ったカゼユキと母親は天井やほかの座席などに手をつき移動しドアへと向かう。

 母親が忘れていった杖を持ちフトはアセビを抱える。


「あ、お義母さん、杖、杖。あっ、チャイルドシート返さなきゃ」

「掃除のときに取り外してくれるらしいからそのままでいいって。下手に取り外して他の人に当たったら危ないからそのままにしていてくれって」


「そうなの?」


 アカツキは自分の荷物とカゼユキの持っていた荷物と二つを担ぎ、アセビを抱えた妻を追って出口へと向かい列車の外へとでる。


 上も下もない無重力化で壁に手を付けず壁から離れどこかへ行ってしまわないよう、わざと人がすれ違えないほど狭く作られ多通路。

 手すりの代わりに小さなでっぱりの生えた壁や天井をつかんで細い通路を進む。


「これはどう進むのが正解なんだい? ボルダリングでもしろというのかい?」


 床だと思われるほうに足を延ばし立っている風にして進むものや、横になって泳ぐように進むものを見ながら母親が訪ねる。


「基本は立つ感じに近いほうがいいよ母さん。ここは通路が狭く一方通行だからいいけど、横になると幅とるし後ろの人に知らない間につま先とか引っかかるから」

「忘れ物か何かで戻ってくる人とすれ違う時だけ横になればいい。といっても姿勢をころころ変えるの宇宙遊泳に慣れてないとむつかしいけど」


「アカツキは部屋の真ん中で縦にぐるぐる回って止まれなくなって泣いてたな、人間手裏剣」

「だから中等部だって、しかもカゼユキが俺を押し飛ばしたからだろ」


 金属探知機を潜り抜け荷物検査と身体検査を受けて奥へと進む。

 通路を進んだ先に二股になった出口見えてくると宇宙遊泳に慣れてきた母から手を放し、ポケットから画面を巻き取った状態のスクロールデバイスを取り出す。


「アカツキ、フトさん俺らはA出口ゲートから出る」


 壁やゲートに大きく書かれた二つのアルファベットの片方のほうへと進んでいきゲートを出る。

 そこは大きな部屋となっていて、換気扇がゴォと音を立てて回っており壁や床に埋まった電球、部屋の中央にはたくさんの座席が並んでいた。


 もう一つの出口はこの部屋には続いていないようで入り口は一か所のみ、奥にトイレやスタッフルームなどが見える。

 座席の並ぶ場所を床とすると天井に当たる場所に大型のスクリーンがあり、映画館のような部屋で母は床から延びる手すりにつかまり立ち止まる。


「歩かなくていいのは楽だが、バランスとるのがこの年になるとどうもむつかしいね」

「普段は経験しないからね。宇宙関係の職業かコロニー間の旅行する人くらいしか」


「しかしここも外が見えないね、モニターだけがあって狭く窮屈な気がするよ」

「もう宇宙も近い、分厚い壁の向こうは宇宙だから」


「それで宇宙船は、私らはどこに行けばいいんだい?」

「もう宇宙船の中だよ母さん。さっきの二股のゲート、エアロックを通ってきたでしょ。あとは座って待つだけ次の到着はシンギュラリティゲートをくぐった先、火星宇宙港だよ。席に座って待つだけ、二時間くらいでつくから」


「また待つだけかい。退屈だね」

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