迷い星 3
港を離れると艦尾の大型の推進器を動かし自力での航行を始める。
無重力化の中電車の加速中のような進行方向方法に引っ張られる感覚が続く。
加速中は部屋から出ることができず、アカツキは飛ばされぬよう作業艇の搭乗口前の部屋でキワケとほかの作業員たちとともに休む。
「俺はあまり働いてないんですけど休んでいていいんですかね?」
「移動中は作業艇が流されるから作業できねぇんだ、作業艇だけじゃなくコンテナもな」
「ほかの場所も今の時間は休憩中なんですか?」
「んなわけねぇだろ。ほぼ外で働く俺らだけだ、他は今もまだ仕事をしてるだろうな」
「これってどのくらい休むんですか?」
「ゲートをくぐってもしばらくは加速しているだろうから、今日はもう無理かもな。終業時に加速を止めるからその時に上部構造部へとかえるといい。出港までに時間がかかっているからな、終わる時間まで一時間もないだろう」
大きな体をいっぱいに伸ばして椅子に腰掛けるキワケはスクロールデバイスを広げている。
コンテナを運ぶ作業中は狭い作業艇で宇宙服を着ていたこともあって気が付かなかったが、キワケは片足に簡易的な義足を付けていてその足をカツカツと床にあてて音が響いていた。
「消費した推進剤の補給と酸素の補給が終わりました」
「ご苦労! とはいえ、俺がいる間に動かすことはないだろうけどな」
広い部屋だが部屋の中にはアカツキを含めて五名と少なく、キワケとアカツキそれと別の作業艇に乗っていた二名は別のテーブルで休んでいる。
作業艇に乗り込まなかった一人だけスクロールデバイスを手に部屋の中を歩き回り、一人何かしらの仕事を続けていた。
「あの人はずっと仕事続けてますね」
「そりゃ、今は仕事の時間だからな。役割通りの仕事するだろ、今休んでいるのは俺らだけだろうな。仕事中はずっと可動域の小さく重たい宇宙服を着て狭い作業艇で作業するんだ、休めるときに大きく手足を伸ばして動かしておけよな」
窓のない船の中は日の光も入ることもなくデバイスの時計だけが今の時間を知る方法。
仕事をはじめどれだけ時間がたったかわからないが船の加速が止まり、船内のいたるところからブザーが鳴り響いた。
「終わりだな、ここからは夜の部に入る。俺らの仕事は終了だ、飯食って寝てまた明日このブザーが鳴ったらここに来るんだぞアカツキ。じゃぁ、帰れ」
「わかりました、お疲れ様でした」
挨拶を済ませアカツキは部屋を出て上を目指す。
同じように終業し船内は上を目指して移動しており、その中に食堂へと向かうカゼユキの姿を見つける。
「お疲れカゼツキ」
「アカツキはどこで働いてたんだい?」
上へと戻るカゼユキと合流しほかの乗員とともに食堂を目指す。
「倉庫だよ、コンテナの整理。宇宙服来てさ、作業艇で倉庫内を動き回って。そうそう、ナキリって戸尾さんの知り合いの人が作業艇操縦してたんだが、操縦が荒くて何回か作業艇から振り落とされそうになった」
「もう少し気を付けて操縦してもらいなよ、宇宙服が壊れたら体が無事でも命に係わるんだから」
「時間ができたら操縦を教えるって言ってたけど、あの人から教わっていいものか」
「僕は見ていないから何とも言えないけど、ほかの人から教わるのもいいかもね。そういえばエトはどこだろう」
「最初に連れてかれてどこかに行ったきりだし」
「少し元気が有り余ってるからなじめてるといいけど」
広いシリウスの艦内を移動し食堂へとやってきたアカツキは食堂の奥、詰襟組の座る中にエトワールの姿を見つける。
彼女は輪の中で楽しそうに食事をしていた。
「大丈夫そうだな」
「杞憂だったね」
「あれがエトワールの新しい職場の人間か? あの人らって」
「父さんの周りにいた人らだよね? エトは指揮室で働いてるのか」
「あとで話聞こうぜ、指揮室での仕事」
「とりあえずご飯かな」
食事は真空パックに収められた食べ物が自動販売機に販売され並んでいる。
トレーを持ちデバイスをかざし欲しい商品のボタンを押す、食べたい量だけ買い込むと開いている席を探す。
「そういや売店でもなんか売ってるんだっけ」
「酒保は、お酒とかお菓子とかだね。あとは歯ブラシとか」
「あ、歯ブラシ買わなきゃ。忘れた」
「ロッカーに歯磨きセットが入ってたよ。ワッペン付ける裁縫道具売ってるのかな」
「あれ、熱で引っ付ける奴だろ。ドライヤーで温めてペタンで……やばっ!」
「どうしたのアカツキ?」
二人の目の前でちょうどよく席が空き、二人は席に着きカゼユキは食事を始める。
「もらったワッペンなくした……ポッケに入れてたから」
「うわ、どうしようね。スクロールデバイスと一緒に入れてたなら取り出すときに一緒に出ちゃったんだろうね」
「スタンプラリーで今日何回取り出したか……食事終わったら船全部回って探すか」
「手伝うよ、見つからなかったら誰かに相談してどうにかならないか聞いてみよう。とりあえず今はご飯だ」
大きくため息をつきながらもアカツキも食事を始めた。




