そらの彼方へ 4
通路の四隅で間接照明のように光るライト、布張りの通路を進みスタンプラリーを進める。
アカツキたちがいるのはシリウスの艦の上部構造物、説明にあった貨物船由来のシリウスの艦首の大口径コイルガンは船の中央より後ろに伸びるほど大きく場所をとっていてその後ろは砲弾の保管庫という巨大な砲身の周りに推進器や居住スペースがくっついている船。
食堂も上部構造物の一か所で六百メートルの船体すべてに通路が通ってなくても、高低差で左右だけでなく上下にも移動する艦内。
三人で固まって移動しながらサインをもらうため艦内あちこちの部屋を目指す。
「通路と部屋の地図を見ていたらアリの観察キットを思い出すよ」
「初日にこんなことしてていいのか? 訓練とかもっとなんかあると思ってたけど」
「これからここで生活するわけだし部屋の位置を覚えるのは大事だと思うよ、授業で軽く配置を習った程度で実際こんな大きな船の中を移動するのは初めてだし。それと、訓練するにも出航しないことには始まらないんじゃないかな」
「まぁ、そうか。港にいてもできることは少ないか?」
宇宙船という無重力の世界を進む宇宙船の構造上、階段はなく通路は緩やかな坂が続いている。
船員たちは皆出航まで暇なのか新人の顔を見ようと部屋の前で立ち話をしており、アカツキたちを見て手を振り挨拶を交わす。
誰もがガタイはよいがアカツキたちの倍以上は生きているであろう若くても初老以上の男女。
「今日来た新人か、若いな。戦争なんて言ってるが、この船の役割は遥か遠方から新路上に砲弾ばらまいて帰るだけだ、訓練は厳しいだろうが気楽にあまり思いつめるなよ。宇宙での生活は長い、ずっと無重力ってわけでもないが筋肉の衰えは早いからトレーニングは普段より気を入れて励めよ」
「はい、がんばれるよう努力します」
「こうやってまったりできるのも今日限りだ、港を離れたら休む間もないぞ。半年後には戦場に向かうからな、それまでにこの船での動き方をしっかり体に染み込ませておけよ」
「はい」
軽い挨拶として尻を触られたりハグを求められ老婆に囲まれるアカツキと、飴やゼリーなどをもらうエトワール。
「いやー若い若い!」「イヒヒ、兄ちゃんいい筋肉してるね」「張艶のいい尻じゃない」
元気のいい老人たちにもみくちゃにされながらもスタンプラリーの条件であるサインを求めた。
彼らは快くサインを書き、カゼユキはサインの終わった後に強い力でバシッと背中を叩かれエビぞりで宙を二回転する。
サインを書いてもらっている間、待っていたエトワールが感じる肌寒さに身震いをした。
「なんか、寒いね。クールっていうよりコールド」
「さっきカゼユキも言ってたな。確かに言われてみれば少し肌寒いかも」
エトワールにサインを行っていた老婆がスクロールデバイスを返却しながら答える。
「寒いのはこの船の電力源の核融合炉、それと艦首コイルガンのコイル、デブリ排除用のクリアランス、トイレやその他機械の冷却などで船のいたるところに冷却水の配管が通っています。停泊中は推進器も止まるし冷却するものがなくなって艦内が特に冷えるから風邪ひかないでね、動き出せば少しはましになるから。この船での生活はコロニーなどと違って寒暖差が大きくなるけど健康には気を付けてね」
サインが終わり全員の背中が叩かれたところで、次のチェックポイントへと向かい老人たちに手を振られ見送られるアカツキたち。
「日に焼かれてるみたいにひりひりするよ」
「背中が……この服それなりに厚い生地だろ、何でこんなひりひりするんだよ」
「不思議だよね、父さんのげんこつも結構な時間頭に響くけどそれとおんなじ感じだ」
通路の途中にあった空気と真空を使っての吸引するタイプのトイレや個別のシャワー室などを見て回り先へと進む。
「次はどこ行く?」
「下の構造物もあるけど先に上に行こうか、指揮室」
「宇宙船に上下があるのもおかしな話な感じするよね」
「貨物船は人口重力を作るんじゃなかったっけか」
「寄贈にも停止にも時間のかかる核融合炉を止められないからね、そのエネルギーを推進力に充てて人口重力を作り続ける。港にいるときは作った電力を港に送っているからほかの宇宙船同様に停船していても問題はないんだ」
「人口重力? コロニーとかのぐるぐる回転するやつ? この船もぐるぐる回転するんだ」
「シャワー室があるのは重力があるからか?」
「かもね、じゃなかったらバスルームには湿ったタオルが並んでいたはずだし」
「タオルで体中拭いて回るより気持ちよく体をきれいにできる」
服装は同じ白だが水兵服ベースではなく、かっちりとした詰襟をデザインした制服を着た者たち。
彼らも先ほど同様部屋の外で談笑しながらスタンプラリーの参加者を待っていた。
「ワァオ、詰襟組だエリートさんだ。緊張してきた、どうしよみんな見てる」
「さっきと一緒でサインをもらうだけ……って、あ」「あ」
カゼユキとアカツキ同時に短く言葉を発し立ち止まる。
その中に軍帽と白い羽織のような上着を羽織った白髪交じりの黒髪の男性がたっていて、二人を見て笑みを浮かべ手を振る。
「きたか二人とも。ここに来るのが早かったじゃないか、もう少し後になると思っていたぞ」
「父さん」




