星の防波堤 6
デブリ衝突の衝撃は第三世代の船体を歪め、直線だった通路は緩やかなカーブを描いている。
慣性で航行する無重力下の浮遊感を感じながら前の進む。
「管制室までそんなに遠くないはずだけど、進むのを躊躇してしまう」
照明はほとんど機能しておらず少し進んだ先は赤色灯すら点灯しいていない蓄光塗料が頼りの世界。
壁に張られた粘土が破損時に舞った細かい破片を吸収してくれるため通路に脅威となるものはないが衝撃でいくらか粘土板が剥がれかけ歪んだ通路は凸凹になっていた。
「音もなく、静かすぎて耳が痛い。話していないとどうにかなってしまいそう」
真空状態で周囲の音も聞こえず、手に入る情報は光る白い線と手と足に膨らんだ布の壁と通行用の薄い金属の板を伝ってくる振動のみ。
キーラーはスクロールデバイスのライトをかざし暗闇を照らしながら歩き出す。
「通路は進めそう? ですか」
ヘルメットの無線も大きなノイズが走り交信ができているかも不明で、通話をつなげていても意識を散らす音が響いてくるだけ。
通路が歪んでいる影響か隔壁が閉じかけたまま半開きで停止ている、
「進んで大丈夫なのですよね?」
星軍の船は船体を言う枠を作りその中に用途の応じてあとから部屋を配置し、最後にそれをつなぐための通路を配置するため空洞が多い。
閉じかけた隔壁の先は通路が割れ、続いていた先の通路が数メートル離れた場所にあった。
ライトで通路の横を照らすと、工事現場の足場のように組まれた部屋と通路を支える衝撃緩和用のサスペンションが見える。
「……飛ぼうかしら」
そんなことを考えていると船体が激しく揺れだしたのでキーラーは慌てて引き返す。
『無事ですかお嬢、デブリとの直撃を避ける進路を修正するためにスラスターを噴射しました。何度も呼び掛けたんですけど』
「ええ、ノイズがひどくて聞き取れていませんでした。警告用のランプも割れてしまったみたい。船体はあちこち通路が断裂していましたわ。衝突緩和用のサスペンションがあっても設備がかなりのダメージを受けていると思われますわね。戦争が終わったら買いよる予定でしたのに」
『少したって情報が集まってきました。被害は、艦首から船右側に向かって大きく損壊、前方の砲はすべて電気、砲弾供給などの問題で使用は不能。後方の砲は撃てます。艦内での死者は現在確認できているのは三十名ほど、重軽傷者は七十名。本艦は現在、大型のデブリが艦首右下に突き刺さったまま航行中です』
「わたくしのような無傷で済んだ人はほとんどいないんですね」
『軽症なものも、パニックなどを起こし沈静ガスで仮眠状態のものが多いです』
「酸素も有限ですから、無駄に消費させるわけにもいきませんしね。彼らの目が覚めたら、すぐに艦内設備の復旧をしてもらわないとですね」
管制室へと向かっている最中、キーラーは発光塗料がわずかに照らす通路の先に動くものを見かける。
「そこにいるのは誰です?」
皆各部署の部屋で待機を指示しており誰もいないはず、足を止め様子をうかがうと通路の先で乗組員の誰かが外との出入り口となるハッチを開こうとしていた。
宇宙服のヘルメットの一瞬だけ見えた彼の表情は怯え恐怖からパニックを起こしている様子でキーラーの言葉に返答はない。
「待ちなさい、今は外に出られない」
彼は衝撃で宇宙服をどこかにぶつけたようで背中のバックパックに亀裂が走っていた。
「沈静ガスの装置が壊れている」
船外に出ようとしているものをキーラーがすぐに止めようとするが、突如船体が進路を変えたようで通路に弱い疑似重力が生まれ身動きが取れなくなる。
そうしている間にも誰かはハッチを開けるための操作を進めていき、鍵が開きハッチの解放のランプが光りだす。
「待ちなさい!」
故障してしまっているのか短距離用の通信をつけキーラーの引き留める声も届かず、ハッチを開けると顔も見えない乗組員は何かに追い立てられるように宇宙へと飛び出ていく。
クリアランスで船体に降り注ぐほとんどのデブリは焼かれているが、数が多く処理の優先目標が大型デブリへと切り替えられているため小さなネジほどの装甲で食い止められる程度のデブリは無視されていた。
そのため対物ライフルより強力な威力を持った金属片が、何も考えず飛び出た宇宙服の上半身を弾き飛ばす。
「……っく」
高速でスピンをし彼方へと消えていく下半身を確認するとキーラーは開いたハッチを閉め直した。
死亡者の回収などをしていたとはいえ見慣れることもできずキーラーの体の奥からこみあげてくる。
吐き出してしまえば宇宙服を着ていては拭うこともできず無重力空間では顔に張り付いてしまい窒息してしまう、胃からこみあげてくるものをこらえてキーラーは再び磁力で床に張り付き通路を歩きだす。




