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光速の白鳥 8

ネビュラは二つの巨大な彗星のうちの片方の彗星のデータをとっているモニターを注意深く観察していた。

巻き上がる粒子などが影響し光学映像では地表を調べられないため、送られてくるデータは熱や強力な電波などを可視化したもの。


「待ってください。右上のモニター、今の個所をもう一度見せてください」

『あ、はい』


ネビュラに指示されオペレーターが色のない白黒の映像を巻き戻す。

シートモニターの一枚をはがし自分のそばのアクリル板に張り直した。

映像は別の別の亀裂、その亀裂の奥には巨大な砲塔として機能している瘤が大きく膨らんでいる。


「砲撃は飛んできていないのに攻撃準備だけはできている。それもこちらを狙ってもいないし、割れた亀裂の内側の砲塔は何のために」

『以前熱源は高まりつつあります』


「待ち構えている前線艦隊への攻撃用にしても準備が早すぎる」

『本部からの指示が来ました、戦線に変化有り帰還せよと』


その報告に顔を上げて艦の周囲を映しているモニターへと目を向けた。


「仮旗艦の指示は」

『今指示が出ました、こちらの調査が終わっているのなら撤収です。こちらの返答を待っています』


「ならすぐに逃げましょう、観測機器はいらないものはすべて止めて、彗星へのレーダー照射の停止。微速前進。どの程度がデータとして必要なのかわかりませんが一時間も彗星に電波を放っておきながら戦艦級が現れないのは異常すぎます」

『了解、旗艦へ報告。指揮室へ指示の共有後に微速前進』


戦闘もなく艦隊は調査を終えて艦内放送などの撤収作業に入る。

慣性航行で進んでいた艦隊は推進器を起動させ徐々に速力を上げていく。


「戦線に変化が気になりますね、詳しい説明とかありましたか?」

『いいえ、とくには』


「こちらで彗星の異変とやらを調べることはできますか?」

『いえ、この艦には彗星に関する専門家などが搭乗していませんので』


「ですよね、私も今までに現れた戦艦級などの知識はあれど彗星自体のことはサッパリ。でも何か違和感を……いいえ、私は一戦闘員。解析も判断も上の人に任せましょう」


座席に付き徐々に加速する慣性の力を感じながらネビュラはスクロールデバイスで仮眠をとって休んでいるノヴァが目を覚ました時のための報告書を書く。


「支援の砲撃が飛んでこなくなるんでしょうか、なんであれまだ帰路の予定時刻まで時間がある。今の時間から帰還するには現在の位置から……撤退ルートは十七番は時間が間に合わない、なら十八番か。戦艦級の接近は?」

『ありません。彗星が近い影響でノイズがありますが光学、熱源ともに広範囲索敵に反応なし。接近する戦艦級はいません』


「通信と索敵が目的で作られた試作の船とはいえ、彗星の調査に向かわされましたが。無事に帰れそうでよかったですね」

『ですが、前線で起きた問題は何でしょうか』


モニターに映る無数の砲弾が彗星に着弾する様子を見てネビュラは呟く。


「彗星は砲弾の迎撃すら行っていない。盾となる戦艦級の存在もない、まるでこの彗星の防御をあきらめたかのような無抵抗、この艦隊にも戦艦級は襲ってこない。反撃する気力がなくなったと考えたいけど……」


今はまだアステロイドベルトにいる前線艦隊から放たれている無数の砲弾が柱のように彗星の方へと飛んでいくのが見えている。

別の艦隊の攻撃に巻き込まれないよう、まっすぐ太陽に向かって帰還することもできず艦隊は指定された帰還ルートに沿って進む。


「前線への帰還はどのいつくらいになりますか?」

『十八番の帰路になりますと、前線への合流は今からですと二十二時間ほどかかります』


「もどかしい、まっすぐ帰れば四時間程度で前線に帰れるのに」


アステロイドベルトに向かっている彗星からの攻撃はなく艦隊は彗星に背を向け帰路についていると、休憩が終わり休んでいたノヴァが指揮室へと戻ってきてネビュラに通信を入れる。


『ネビュラ君、今戻った。私が休んでいる間に変わったことは』

「おはようございますノヴァ艦長。彗星の調査を切り上げ帰還中です、前線に何か起きているようで早急に戻るようにと前線本部からの指示があり、予定時刻より早めに調査を終えて十八番目の帰路コースにて撤退中です」


『なるほど。ああそうだった指揮権を旗艦をこの艦に戻さないといけないな。そちらを優先する、それが終わったらまた連絡をする。ネビュラ君の休憩のタイミングもその時話し合おう』

「わかりました。ひとまず……」


ノヴァとの通話の最中にネビュラのヘットセットに指揮室にいるオペレーターの声が響いてくる。


『レーダーが接近するものを検知! 戦艦級……多数と要塞型接近!』


ネビュラとの会話の途中で警報が鳴ったことでノヴァはすぐに指示を出す。


『この艦隊に要塞型を相手にできるほどの戦力はない。高威力なミサイルも配備されていないしな、全力で逃げるぞ。速度が速いなら牽制射撃の準備も、ネビュラくん準備をしておいてくれ。艦隊にも指示を飛ばし艦内放送、ニ十分後に最大船速で逃げる』

『最大船速ですか、ですが艦内後方へと強力なGがかかると思われ……』


『多少の設備への被害は想定のうちだ、追いつかれでもしたらそれより被害が出る。再度、物の固定と安全な場所での待機を呼び掛けてくれ』

『了解です』


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