デイブレイクジェミニ 8
艦隊はカストルk4444、k0444、ボルックスb4444、b4440の四隻と民間船四隻。
民間船を守る盾となるボルックスがその面積の広い船体に取り付けられたレールガンを放ち、装填の間その影に隠れたカストルが姿勢制御スラスターを最大限にふかして横スライドし第二世代の影から飛び出て砲撃し再びその影へと隠れる。
戦艦級も攻撃を避けるため右に左にと蛇行しながら接近し、砲撃を受け脆くなったものはその蛇行の力の変動に耐え兼ねへし折れいく。
『落ち着いていますね』
副艦長の言葉にキーラーはモニターから目を離し隣を見る。
隣に座る副艦長は体を強張らせ拳を握り震えていた。
「震えていますわね?」
『怖くはないのですか? 今の攻撃もしかしたら大きな被害が出ていたかもしれないのですよ? それに第二世代は被害担当艦、攻撃を受けて沈む可能性が高い。防御能力を上げられた代わりに加速力が低いこの第二世代は彗星に補足されたら逃げきれない』
戦艦級の速度は速く徐々に距離を詰められ、すでに観測衛星ではなく第二世代の強力なレーダーで捕捉ができる距離。
それに従い砲撃の命中率が上がるが戦艦級の砲撃の制度もよくなってきていて、何本もの白い柱が船体を横切っていく。
「戦って死ぬ場所ではないのですか? それに第二世代は装甲強化型。前線では第二世代の被害が多いですけども、遭遇戦だと装甲の薄い第一世代が被弾し大損害を受けやすい。パパはわたくしの身を案じて第二世代のこの船を任せてくれた。パパがよく話していたのだけど、もしかしてあなたは戦闘初めて?」
『え、ええ、その、カストルに配属されて、ずっと救助や輸送任務たまにある防衛任務も交戦することはなく終わる平和なもので』
砲撃の振動でシート状のモニターの一枚が剥がれ、キーラーのもとへと指揮室内を漂い流れてくる。
腕を伸ばしをれを拾い上げ座席前のアクリル板に貼り付け、スクロールデバイスと同期させ艦内の損傷情報を見画面を映した。
「なら、本当に初戦闘ですわね。大丈夫わたくしもよ。何年も戦わずにいられたというのは幸運であるというのと同時に、もう戦い方忘れているのではないの」
『戦闘は今までになく、何度か転属の指示も出ていたのですがリングレットさんが引き留めていてくれて』
「パパは優しいからね、若い命を無理に戦場に出ないようにとどめたのでしょう」
話している間に戦艦級を表す光点がレーダーから一つ消えた。
攻撃をかわし生き残った七つの戦艦級の射程距離に入り、モニターには戦艦級から吹き出される何本もの白い柱が映る。
「正直ですわね。第二世代は盾となるだけ、あとは戦闘が終わるまでただ耐えるだけです。戦艦級の注意を引くためにこの船には多くのレーダーを積んでいます、そのレーダーで他の艦よりより詳細な情報を集められますわ。その情報を艦隊に報告し、あとは射撃管制室とパパの乗るカストルを信じましょう」
『わかりました』
二発目の被弾、先ほどより大きく揺れ警報が鳴り響く。
船体に穴を開けるだけの威力、船体は回転を防ぐために姿勢制御スラスターを吹かせ砲撃とはまた違う小刻みな横揺れが艦内に発生する。
激しい揺れに頭などを揺さぶられ気分が悪くなるものも出ているが、被弾で激しく揺れる可能性のある状態で席を立つことは許されない。
「さっきより、揺れが大きいですわね、被害状況は」
『装甲貫通、……ですが艦首付近で右舷第一砲塔の接続が途切れただけです』
『冷却液の流出止まりました』
『三番推進器に不調、現在問題個所をドローンにて確認中』
「皆優秀ね、さぁ、残りも倒しましょう、艦内通信をさせて頂戴」
艦内放送の準備が整うと大きくキーラーは息を吸い込む。
「皆、怖いでしょうけど、戦艦級の数もあと少し、もうじき戦闘が終わりますわ。任務が終わったらパパのお金で焼肉よ! 不景気で今はお肉も高いですわよね、お腹いっぱい食べましょうだから気を抜かず誰も欠けることなく、この戦闘を終わらせましょう!」
向かってくる戦艦級を二つ破壊して残りは五つ。
画面の向こうで同型艦のボルックスb4440が立て続けに三発被弾し船体が半回転する。
「派手にやられたわね、向こうは大丈夫なの?」
『通信はできます、負傷者は多いですが戦闘継続は可能とのこと。ボルックス4440は戦闘を継続しています』
「回転して無傷の面を上にしたのね」
半回転後に何事もなく下面にあった砲塔は戦艦級を狙いだし砲撃を続け、レーダーに映る光点がまた一つ消えた。
順調に戦艦級が破壊できており、安心しているとそこに新たな報告が入る。
『カストルk0444大破!』
攻撃のために飛び出したカストルの下部構造物に攻撃が直撃し船体が不安定に回転し始め、姿勢制御ができておらず長い側面をさらす感じとなりそこへ不運な一撃が艦首コイルガンに命中し長い砲身が折れ姿。
「向こうには悪いけど民間船だけは守って」
大破したシリウスは何とか体勢を立て直そうと姿勢制御スラスターを吹かしているのを見ながらも迫ってくる戦艦級へと意識を向ける。
カストルの砲弾が戦艦級を正面から貫く。
すでにお互いの砲弾がしっかりと狙えば直撃する距離。
モニターにも次第に大きくなってくる岩石片が映っている。
戦艦級はレールガンの砲弾を浴び右に左に揺れるため、白い柱は見当違いの方向へと飛んでいきボルックスにも民間船にも命中はしない。
「あと少し、もう少しで終わるわ」
最後の戦艦級を破壊し大きなため息をつこうとすると、割れた岩石片が小型となって撃ち出され向かってくる。
クリアランスでも蒸発させきれない破壊した巨大な破片がボルックスに突き刺さった。
攻撃の被弾とは違い目の前で見ていた艦の損傷状態を示すモニターが一気に赤やオレンジへと染まった。




