表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来破滅星の世界 青い星を焼き焦がすもの  作者: 七夜月 文
一章 果てより現れ戦いをもたらすもの
10/176

流れ星 3

 

 冥王星近郊、シリウスS1001と随伴するカストル砲艦四隻、コールサック警邏艇四隻は破壊した敵戦艦級の後処理をしていた。

 艦内はすでに戦闘態勢が解かれており館内は明るいライトで照らされ、閉まっていた隔壁はすべて開き人の行き来が自由になっている。


 艦内の下方に向けたスラスターのブレーキによる人工重力も消えており息の詰まる宇宙服のヘルメットの脱ぎ、白と黒のマーブル髪をかきあげて艦長はチューブに入ったコーヒーを吸い取りながら狭苦しい指揮室を出てシリウスの第一艦橋へと移り作業の報告を聞いていた。


『艦長、現在デブリ回収率零七%。改めて、敵再活性化の予兆なしです』

「民間船は完全に事故だったとはいえ、他のコロニーや船に雨を降らせるわけにもいかないからな」


 艦橋には大きなガラスが張られて、何層にも重なる特殊ガラスの集まりで柔軟性はないが強度は金属と同等。

 その透明な壁の向こうには活動を停止した敵の先兵の姿があった。


『作業終了時刻は七十二時間後ほど』

「了解した、消滅も始まっているし戦闘はもう起きないだろう。各員当直のもの以外最低限の人員を残し休むように」


 一千メートルほどあった細長い小惑星も攻撃を受け半分程度の長さまで縮まっている。

 砲撃で破壊され多部分以外は塵が積もり灰色でいくつかクレーターの後もある細長いいたって普通の小惑星なのだが、その岩の塊の一部に民家サイズくらいある半月状のキノコの笠のようなものがいくつか生えており異彩を放っていた。


『……艦長がお孫さんに会えるのはまだ先になりそうですね』

「ああ、そうだった。俺らが解放されるのは七十時間以上先か、港に戻るのはもっと先だしいつになったら会えるのか。戦闘シフトの終わり際に、皆も疲れているだろうがもうひと踏ん張り頑張ってくれ」


『今更ですが、戦争中なのにゆるいですよね』

「戦争というより、駆除だからなすごく規模の大きな。戦争での死者も後の世じゃ駆除作業中の不幸な事故として片づけられる、そんな戦争だ」


 割れた灰色の塊の中に銀色に光る個所が見える。

 それは根を張っているように割れた断面全体に伸びていて、一部が瘤となって小惑星の表面に飛び出ていた。


「そういえばシンギュラリティゲートの移動はもう始まっているのか?」

『はい、数時間ほど前に。火星行きの三つのゲートは整備や修理の終えた艦に曳航され移動を開始しました。カストルK4444を旗艦とする艦隊は民間船の救助を行ったため火星行きのゲートの曳航は予定位置より少し遅れているとか』


「冥王星のコロニーの避難は済んでいないんだろう。予定ではまだ数週間は猶予があったはずだ」

『彗星自体も冥王星のほうへと進路を変えているとの報告が。彗星が到着するまで数か月あれど、戦艦軍が大挙してきた場合は止められなく万が一にもゲートを超えられたらその被害はとてつもないことになると』


「通信を傍受されたからか。太陽系に入り速度を落としたと思ったら、今度は身を割って小惑星を生み出し始めた」

『カイパーベルト帯で小惑星を重力で引き寄せ大きくなったかと思えば、戦艦級が一気に増えましたからね』


「第二世代とやら完成しているんだろう、いまだに見たことはないが数をそろえているだろうか」

『早くしないと冥王星コロニーが本当に襲撃を受けることになる、この間の民間船事故とは桁が違う犠牲者が出る』


 宇宙艦艇に搭載されるデブリ破壊用近距離防衛レーザー兵器、クリアランスによって漂う破片と残った大きな塊を熱で裁断し細かく砕く。

 超高温で溶かされ小さく砕かれたものが耐熱塗料で補強された作業艇から延びるドローンのアームの持つ箱に収められていく。

 割れた小惑星の中から出てくる銀色の物質は蒸発していき白いガスとなって小惑星の周りに漂い消えていく。


「この銀色のものが宇宙生物か。もう何年と戦ってはいるが、こうして間近で見るのは初めてだな。記録はとっているか?」

『十年前、戦争が始まった当初からにすでに撮られて入れ。偉い学者さんから発表された情報ですと菌類のような生態を持つ生命体だそうで、彗星にもこれと同じものが小惑星の中に染み込んでいるとか』


 飛び散った小惑星の破片を回収して艦艇の艦尾にある格納庫へと引き返していく作業艇。

 この怪物が再び活動を起こさないように完全に破壊し消滅させる意味もあるが、残骸を放置し今回の民間船へのデブリ衝突事故のようなことを今後にまた起こさないように危険のない戦場から離れた場所で行われている。


「小説などに出てくる宇宙人のような意思の疎通ができるものならよかったのにな」

『何百、何千と長い年を生きるには自我がない原始的な生き物のほうがいいとかどうとか』


「いいよ、専門的な話は頭が痛くなる。この年になると難しい話は頭に入ってこないんだ」

『すみません、実は私もあまり流し見で見ていたもので』


 戦争をする相手が意思の疎通の取れない怪物ということまではわかっているが、なぜ本来の軌道を変えこの太陽系へと向かってきたのか、なぜ太陽系に入ったところで減速をするのか、攻撃手段を持っているのか未解明なものは多い。

 それでも、多くの人の命がかかっている限り戦わなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ