第七話 そして俺はチャリ、チャリと音を立てながら床に落ちているものを拾った
「えっ」
冷え切った夢原の声と共に現れたのは虎徹だった。
「こんなところに雲隠れかよ? 探すのめんどくさかったんだから少しは労れよなあ?」
夢原の顔面を蹴り上げて土足でこちらに向かってくる。俺は後退りしながらスマホをポケットに入れる。
「大丈夫か! 夢原!」
「う、うむ。なんとか」
テレポートできるのは俺だけ。夢原は馬力不足でできないらしい。逃げられない。ま、逃げる気なんてない。女の子の顔面を蹴り上げるやつを見逃すわけがないから。
「早くこっち来いよ。そういう抵抗する目しなくていいからさ。だるいよお前」
虎徹はこちらを挑発してくる。
「気持ちを抑えてくださいね橘さん、冷静に冷静に」
ナナが脳に話しかけてきた。言われなくてもそのつもりだ。
虎徹は玄関にいる。我が家は玄関まで一本の廊下でリビングまでつながっているため繊細なエネルギー制御が必要となる。
———スカイツリーでの特訓中、俺の問いかけに夢原は興味深いことを言っていた。
「なあ、このチップはさ、出力限界はあれどエネルギーでできることはなんでもできるんだよな?」
よくよく考えれば性能次第ではこのチップは核兵器と化すのだ。
「そうだぞ」
「なんかつまんないな。大体漫画とかは一人一能力じゃん?」
俺たちが漫画の世界にいるなら一瞬で完結してしまう気がする。それこそ核とか地震とかで。
「だからこそ面白いのだよ伊織殿。その場の判断、機転、想像力、経験、知識…様々なもので、できることの幅が広がっていくのだ」
彼女はどこか俺に期待の目を向けていた。
俺は『1%の障害』の一人として、この世界の歯車を戻すことができるのだろうか———
「早く死ね」
恒例の殺害予告と共にエネルギー合成弾がこちらに向かってくるがエネルギーを同じ分こちらから送ることで打ち消した。前の俺とは少し違うぞ虎徹。
「そういやお前もチップ持ちか。だるいな」
ガツガツと床を靴で削りながらこちらにくる。
ど、どうする俺。核や地震の大規模攻撃は自爆するようなものだ。
その場の判断、機転。今の俺にできるのはそれくらいだ。考えろ俺。近くにあるのはこれくらいしか…
そうか…
これだ。これしかない。成功するかはわからない。でもこれなら虎徹だけを倒せるかもしれない。
「い、伊織殿!」
心配そうにこちらを見つめる。
「大丈夫だ夢原」
「ふふ、橘さんってほんと面白いですね」
正直何処かのお嬢様中学生の真似をする時がくるとは思っても見なかった。
そして俺はチャリ、チャリと音を立てながら床に落ちているものを拾った。
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