第六話 この幸せのツケが回ってくる、そんな気がした
「そうですね〜最近のオカズから予想するにそんなこt」
必死にスマホをつかみ消音にする。確かに夢原の胸はないに等しいが気にすることないよ!うん!
「あはは、冗談冗談。本当はナナちゃんにそのまま伊織殿のそばにいてほしいなって」
「私はかまいませんけど?」
む?それはつまりエンドレスチップが自由に使えるということか?
「伊織殿にもちゃんと使い方教えてあげるからいいではないかね」
「なんでだよ、俺が1から使い方を覚えるより夢原が使った方が強いじゃないか?」
「理解が足りてないようだね伊織殿、君は何学部かね?」
「えーと、情報ですけど…」
「なら大丈夫そうね。性能の違いをPCにしてみると、虎徹がゲーミングPCのWindowsなら夢原はただのChromebookなのだ。虎徹のチップはIntelのi9,夢原のチップはi3で今伊織殿がもつナナちゃんはAppleM1くらいかなあ。言いたいことわかるかね?」
「えっと多分だけど夢原じゃチップ本来の力を発揮できないってことかな」
「だいせいかーい!だから伊織殿が持つべきなんだぞ」
手を大きく広げて喜んでいる。例えがマニアックだが伝わって嬉しそうだ。
「ちなみに俺はPCにするとどれくらいだと思う?」
ふと気になった。俺、MacbookProとか言われるのかな?才能あるのかな?
「んー難しいね、ナナちゃんはどう思う?」
「そうですね、今はファミコンくらいですがうまくいけば富岳並かと」
ふ、ふ、富岳ってあのスーパーコンピューターのか…あの1秒間に1000兆回の計算ができる富岳か???
「……………」
「えええええええ〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「じゃ決まりですな!」
こうして俺は夢原とナナから朝までレクチャーを受け、護身くらいの技術は手に入れることができた。ナナがいて、離れ過ぎていなければ、直接持っていなくてもチップが使えること。叫ばなくても空間転移できること。エンドレスチップの性能によって最大出力が違って優劣があること。それから———
「伊織殿の部屋は吹き飛んでいるから同棲しようではないか!」
「は?」
「だーかーらー同棲するのだ!」
は、はい?
「伊織殿の部屋は虎徹の攻撃で丸焦げになっちゃったし、何より夢原は伊織殿を守る役目があるのでな」
丸焦げかよ俺の部屋…
まあ確かに真っ当な理由だが、同棲という言い方からして何か他の理由がありそうな気がする。
「それは助かります夢原さん! 正直橘さんと毎日過ごすのは億劫でしたから」
グサッ。
———そこから虎徹の襲撃もなく、平穏な毎日が取り戻しつつあった。
外は急に冷え、こたつが欲しい季節になってきた。
俺たちは元の大家に必死の説得をして、東京郊外の借家に引っ越した。何せ夢原はめちゃくちゃ金を持っていたのだ。
「ナナーお茶沸かしといて〜!」
「エネルギーは無限ですけど使い方がしょぼくありませんか?橘さん」
文句を並べながらナナはやかんに近づく。
「何がしょぼいだ! 貧乏性なんだ俺は」
楽しい。楽しいぞこの生活。広い家、隣には美女、そして湧き出るエネルギー。最高だ!
「はい、はい、わかったのだ。じゃあその日でいいのだね? うん、うん」
今夢原は友人と電話で話している。どんな人か聞いても
「んーいい人。伊織殿にも良くしてくれると思うぞ」
としか教えてくれない。サイボーグのお友達ねえ。どんな人だろう。
「あとそれと夢原じゃなくて心って名前でこれからは呼びたまえ仁太」
夢原の名は心。とても素敵な名だ。
「どうしてかって? 同棲してる彼氏と結婚するかもしれないのだ」
え、え、え…それもしかして俺のこと言ってんのか? ま、まじっすか?
丁度ピンポーン、ピンポーンとベルが鳴る。
来客は勘弁だ。俺はともかく夢原は整理整頓ができないタイプで家が汚く、廊下に財布が転がっている始末だからな。
「あ、夢原出るのだー」
彼女は受話器に電話をかける。夕飯時なので彼女はエプロンのまま玄関のほうへ駆け寄った。こんな時間に誰だろうか。
特に根拠はないが、この幸せのツケが回ってくる、そんな気がした。
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