第四話 世界初の体験を俺はしたのかもしれない
暗い。
確か俺は光線を受けたんだっけ。死んだのか俺。
「転移先をお選びください」
俺の脳みそ自体にに話しかけてきているような感じがした。
「俺、死んでないんすか?」
「死んでいませんよ。ですから会話できているのでしょう。転移先をお選びください」
一体俺は誰に話しかけられているのか。俺は本当に生きているのか。転移先って移動するのかな。疑問は次々と脳内を駆け巡る。でも、とりあえず悔いは残したくない。
「どこにでも行けるのか? 転移って」
「ええ。どこへでも」
なら場所は決まっていた。なんだかニヤケが止まらない。
「夢原んとこ頼むわ。快速で」
「ふふっ、面白いですねあなた。快速なんてありませんが全力を尽くしましょう」
目の前が白い光で覆われた。
気づけば夢原の背後にいた。
「よ、ただいま」
夢原は何か叫んだ後のようだった。
「ば、馬鹿なのかね伊織殿は?」
彼女は少し笑っていた。
「夢原が希望を託して空間転移させたのに転移先ここにするなんて。絶望だぞ」
彼女は必死に続けたが、相変わらずのおじさん口調で安心した。
「とりあえず金髪のサイボーグ倒せばいいんだろ? はいこれ」
左手につけていたチップを夢原に渡そうとした。
なんとなくわかってきた。多分この赤いチップがサイボーグの動力源でいろんなことができるんだろう。
「まあそうだけどその赤いチップ返してくれたところで夢原の勝利は期待できないのだ」
「なんで?」
金髪は次の砲撃を始めるべくこちらに光線を打つ準備を始めている。
「諸々の説明は後にさせてくれないかね伊織殿。とりあえずそれで空間転移してくれないか。できれば夢原ごと」
言われずともそうしなきゃ共々粉々だ。
「空間転移!」
間一髪で金髪の光線を浴びることなく無事にスカイツリーの展望台の屋根へ降り立つ。
「危ないじゃないか伊織殿、さっきから転移先のチョイスのセンス疑うんだが夢原」
「一度入ってみたかったし。それよりしっかり説明してもらおうか?」
スカイツリーのつばに二人で腰を掛けた。
「実は夢原、伊織殿を暗殺するためだけに作られたサイボーグなのだ!」
「初めから怖いなおい。どうして俺が狙われてるんだ?」
「伊織殿は数少ない『1%の障害』なのだ。今は永久機関の開発で世界が変わろうとしていて、うまくいけば私を作った組織は大儲け。永久機関があれば戦争にだって必勝だしね。でも永久機関を使って時空転移してみればそれを防ぐ可能性がある人たちがいることがわかったのだ。それに伊織殿も当てはまるってわけね。だから早いうちに殺しちゃいましょーって感じ。」
「なんだ俺レア者かと思ったら全人口の1%も防げる人がいるのか。なら安心だな」
「違う、そんな人世界にいても数人。数人が力を合わせて1%の確率で防げるから『1%の障害』なのだ」
なんか俺物語の主人公みたいな立ち位置になってきたぞ、おい。
「夢原は俺を殺すためにやってきたのに、それでなんで俺のこと殺さないんだよ」
なんだか夢原はそわそわし始めた。こいつどうしたんだいきなり。
「えっと…実は仲良くしているうちに…好きになっちゃいまして…」
沈黙が訪れた。彼女は背を向けて顔を覆っている。
「そ、それは…異性として…か?」
またも沈黙が訪れる。今度は夜景の方を見て足をジタバタとさせながらこう言った。
「うん…伊織殿に惚れてしまったのだよ夢原」
サイボーグからの告白。世界初の体験を俺はしたのかもしれない。
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