第三話 彼の部屋は爆撃を受けたように跡形もなく無くなっていた
『『『ドガゴーン』』』
閉めたはずのピカピカの窓から爆発音がした。時計の針は0時を回っていた。
『『『ドガゴーン、ドガゴーン』』』
止まない。止む気配すら感じられない。
「よっこいしょっと」
明日、いや今日は講義があるから気にしている場合ではない。それでも体は起き上がり外に出ていた。
「———がもうお前ごと息の根を止めてもいいってさ! ざまああ!」
金髪の男と若い女が外の大通りの脇で言い争っている。周りのコンクリートは隕石が落ちたようなくらい抉られている。
「るっさい、夢原はあいつに希望を託すって決めたのだ」
夢原?若い女は夢原か。遠目で見ずらいが流血しているようだ。助けに行くべきか…?
「おもしれえ女、所詮暗殺用のおもちゃに何ができるってんだ。こっちは双璧の虎徹様だぞ?」
「何が双璧だ、ただのサイボーグじゃないか…」
金髪から3mほど離れていた夢原に彼は光線のようなものを照射しようとしていた。
俺は足が震えて一歩も動けなかった。
夢原は目を瞑り死を覚悟したような顔をしていた。
それでも勝手に喉が震えた。
「おーい! そこの金髪〜! 喧嘩なら地元一番の俺とやれよ〜!」
もちろん嘘だ。むしろ俺は虐められている側だった。
声に気づいた金髪はこちらを向いてニヤリとした。
「ばかっっっ! だめ! 逃げて今すぐ!!!」
「てめえか『1%の障害』ってやつは?」
『1%の障害』なんて知らない。なんのことかもわからない。一歩間違えば三途の川であってもおかしくない状況だと思う。それでもそれでも立ち向かわなければならない。そんな気がした。
「あーそうだ、俺が『1%の障害』だ。ビビってんのか?かかってこいよ出来損ないのサイボーグさんよお?」
「ぶっっっっっころしてやるよ」
終わった。終わったマジで。めちゃくちゃキレてるあいつ。
殺害予告の言葉と同時に溜めていたであろう光線がこちらに向かってくる。
———春雨の降る日。夢原は『1%の障害』こと『橘伊織』を暗殺すべくこのボロアパートに引っ越してきた。
「大体、世界がひっくり返る可能性が1%あるなんていくらなんでも危険すぎではないかね」
せっせと引っ越しの片付けをしながらつぶやいた。
初めてだった。暗殺用サイボーグとして作られて初めての任務だったのだ。少し、いやとても不安だった。
「大丈夫、夢原には『エンドレスチップ』が2個もあるんだから」
心にそう言い聞かせた。夢原の生みの親、悟さんが気を利かせてこっそり入れてくれたのだ。
彼は少し申し訳なさそうに言っていた。
「ごめんな、僕のせいで君のチップの馬力が通常の半分だってことが判明したんだ。」
「夢原は大丈夫だよパパ。ちゃんとテストはギリギリ合格したんだし」
「うん。僕は君を誇らしく思うよ。実は君にプレゼントがあるんだ。ちょうど1歳だからな」
彼はポケットから小さな箱を取り出し、開けてみせた。
「うわあ、綺麗だねパパ。お花みたい」
「これ『エンドレスチップ』なんだ。装飾も頑張ったが馬力は周りの奴らと変わらないぞ。」
「じゃあ夢原2つ合わせて1.5倍になっちゃうよ」
夢原の心配をよそに彼は微笑んで、黒髪の上から頭を撫でてくれた。
「君は50%でよく頑張ったからこれくらい構わんだろう」
自然と涙が溢れた。離れたくなかった。パパから離れたくなかった。
でも今は任務を遂行せねばならない。パパの娘として恥をかきたくない。
そう思っていたのに———
伊織殿の左手が赤く光るのが見えた。
「ふっ、やっぱ伊織殿が持ってたか」
ピンチになると笑みがこぼれるとはこのことか。ニヤニヤが止まらない。
伊織殿には申し訳ないが、少々手荒なことをしようじゃないか。
夢原は大きく息を吸い込んでめいいっぱいに叫んだ。
「空間転移!!!!!!」
伊織殿は瞬く間に消えて、彼の部屋は爆撃を受けたように跡形もなく無くなっていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
よければ感想なり評価なりしてくれると幸いです。