第一話 秋風止まぬ真昼間、俺は制服の女を部屋に連れ込んだ
俺の名前は『橘伊織』
毎度毎度女の子みたいだねと言われるが、だからなんだといったところである。そもそも毎日半袖短パンで歩き回り、一日一食うどんで食い繋ぎ、シャワーでさえ渋る女の子は滅多にいないだろう。ああ悲しい。
だがしかし、俺にも娯楽というものはある。元カノから譲り受けた液晶テレビだ。
「これ、あげるよ。君貧乏だし使わなくなったから」と言われた。
なぜ使わなくなったのか聞かなかった俺は愚かだった。テレビの右半分が砂嵐しか映らなかったのだ。
回収業者に頼んで捨てれば逆に俺が金を取られるから狭い部屋の隅に置いてある。
NHKには右半分しか映らないと伝えても半分映るなら半分の料金を出せというもんだから目の前でぶっ壊してやった。だからこいつは元のメディア機器という役割を果たし終え、元カノとの小さな思い出という娯楽を映し出す鉄の塊と化してしまっている。
そんなことを思い出しているとピンポンという音が鳴り響いた。
散らかったゴミ袋を退けて、玄関口を開けると同時に制服姿の女がどかどか入り、キッチンを見回し一言。
「ふーん反省して綺麗にしたか」
そもそも置くものがないだけだが、それだけでは終わらず四畳半の畳を踏み回り、鉄を指差す。
「また変なもの拾ってきて、いい加減にしたら?片付けるのあたしなんだからね。はあ」
いかにも俺の妹感を出して片付けてくれるらしいが一体誰なんだこいつ。
「あのーすみません、どちら様でしょうか」
ビクッと肩を震わせてやっとこちらを向く。
「あのーそっちこそ誰ですか?夢原の部屋なんですけど」
理解が追いつかない。少なくともここは俺の部屋だ。そのはずだ。
「では表札を見てみては?」
元カノとの思い出に浸っているところを邪魔されて少しイラついている自分と制服姿の女。なんだこの構図。
恐る恐る女の後ろから自分も自分の表札を見てみる。
『橘』
「おおおおおかしいいぞおおお!!!!!! お前入れ替えたな!!!! 夢原の表札どこやったんだ!!」
女。キレてる。
「よく見たらどうですか、夢原さん。あなたの部屋隣でしょう」
女は目を細めて自分の表札を見て何かに気づいたようだ。
「あ、すみませんね」
許してにゃんと言わんばかりのポージングで続ける。
「それでは夢原は用事を思い出したので」
そそくさと逃げる女の腕を掴む。
「え…なんですか?」
こいつ俺の部屋に不法侵入して「あ、すみませんね」で済むと思ってるのか?ああん?
「もしかして…告白とか?そんな…もっとロマンチックなところが…」
ピクピクと眉間に皺が寄る。頭部の血管が浮き出てきているような気がした。女の胸ぐらを掴んで言い放つ。
「てめえ、男子大学生の部屋に女一人で乗り込んでタダで帰れるとでも思ってんのか? まさかそんなことないよな?」
女はなぜか顔を赤らめて大きな声で変なことを言い出した。
「え、え、、ま、まって夢原初めてだから……優しくしt」
もがもがという口を腕に埋めた。
秋風止まぬ真昼間、俺は制服の女を部屋に連れ込んだ。
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溜めてありますが、気まぐれの不定期更新です(((