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ぬくもりの手



 ここでふと我に返る。

 俺が魔法に深い興味を示したのは何時になる?


 ――少なくとも、あのようなことが起きないような装置を作ることだ。

 魔法で命を落とすようなことは、あってはならないと自分でよくわかっているはずだ。

 なのに……何故、悩んでいたんだろうか。


「言葉にあまり踊らされ続けてはいけないですよ?」


 ほのかなぬくもりの手が伝わる。

 俺の右腕を軽く握りしめていたのは、すずねだった。


「どうしてすずねがここに……?」

「それは綾先生から聞いたからですよ。大智君は休憩時間開始のチャイムの音も聞き逃していたくらいということですが」

「俺はもう大丈夫だ。落ち着いた」

「ふふふ、ちょっぴり面白みがなくなるのは残念ですが、吹っ切ってくれないことには前に進みませんからね」


 すずねは天井を見上げていた。


「うん? どうしたんだ」

「大智君は大丈夫ですね。それはそれとして、ウチのクラスでの授業のおさぼりさんに対しても言ったつもりだったのですが……ディスペルバイス」


「ふあっ――!」


 赤い魔女の帽子とフリルのある赤いロリータドレス。箒に座って浮かんでいた。

 しかも丸見え。白だ。


 魔法服を身につけていた芽依がそこにいた。魔法服というのは、魔法使いが極限まで魔力を供給する際にも用いられる最高級の魔力増幅装置みたいなもので、魔法に関する特訓以外では滅多にお目にかかれないものだ。

 それが必要になるほどの高度な魔法を、芽依は使っていたということになる。


「芽依、そんなところにいたのか」

「そうですね。初日から期待されていた問題児は大智君以外にもいたようです」

「それは褒めているのでしゅ? それとも……というか、解除されちゃったので落ちちゃうでしゅ――」

 芽依はその場から落下。俺の両足に柔らかいクッションが落ちた感覚がした。


「ほほう……。おふたりはやはりそういう関係でしたか」

「すずね、なんか変なこと考えていないか」

「それはただの気のせいですよ。それよりも、廊下から物凄い勢いでこちらに向かってくる気配がします」

「えっ、誰だろう……」


 俺がドアに目を向けた瞬間、勢いよくドアがスライドする。


「たのもー。熊をもってきたぞ!」


 黒い熊を片手で掴んでいる鷹子が、保健室に入ってきた。


「先輩……それ、何だよ」


「これが見て分からぬか。熊だ」


 鷹子は黒い熊を俺に見せびらかしてきた。黒い毛先はつやがあり、死んだ魚の目をしていた黒い熊はピクリとも動かなかった。



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