はじめの授業
翌日。月曜日からは普通に授業が始まる。綾先生が俺がいる教室に入ってきて、教卓の前に立った。
「一限目は数学となります。皆さん、教科書を机の前に出してください。……では、授業を始めます」
綾先生はひと通り教室内を見渡して生徒の顔を把握したら、黒板に近づいていく。
「まぁ、最初だからあまり難しくありませんがーー」
白いチョークを握りしめると、黒板に数式をすらすらと書いていった。
かぎカッコがふたつあって、分数は使われていない簡単な因数分解が並んでいく。綾先生は熱心にチョークを滑らしていた。
そのとき俺は、頭が下がり気味になっていた。
ちゃんと授業を受けないと、という気はあるのだが。
――魔法で命を落とすこともある。
それは魔法のみならず、魔道具でも同じこと。
すずねの口から聞いた言葉が頭の中にずっと残っていた。数学の教科書とノート一冊を机の上に出していたが1ページもめくっていなかった。
「それじゃあ、この問題を……九蛾大智君に解いてもらおうかしら」
「えっ……あ、はい」
「九蛾君、どうしたのさ?」
「ちょっと考え事を……すみません」
俺は慌てて立ち上がった。そして、綾先生の元に歩いていく。
この学校の教室は教卓に近づくにつれて低くなっており、小学校とかでよくある一般的な教室というよりかは、音楽室のほうがイメージとして近い。床の材質は柔軟性の高そうな灰色で、特別高級感はなく素っ気ないマット状になっている。
そんなことが頭の中を駆け巡ってしまうくらい、俺の顔が下がっていた。
「……ねぇ……あの人だいじょうぶなのかな」
「雰囲気悪そうに見えるけど」
他の生徒の声が聞こえてきたが、俺は刃向かう気がなかった。
――魔法は時と場合により命を奪うもの。
言葉が横切り、足が半歩ずつしか前に進まない。それでも俺は無理やり動き続ける。
やがて綾先生の元にたどり着くと、ゆっくりと顔を上げた。
「九蛾君、具合悪そうだけどほんとに大丈夫?」
「はい……大丈夫です」
俺は黒板にあるチョークを拾い上げた。
すると、すぐに手からチョークが離れる。
「あっ……」
そのまま地面に落下したチョークは半分に砕けた。まだ新品と思われるくらいには、長さはあったのだが……。
「綾先生、すみません……」
「……九蛾君はいますぐ保健室に行ってきなさい。入学後初日の授業からそんな調子なのは少し心もとないけど、体はちゃんと休ませないとそのうち倒れるよ?」
「……はい、すみません」
俺は深く頭を下げて謝った。
綾先生も俺の顔色が悪いことを見抜いての判断だと思うが、反論の余地はなかった。




