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妄想クロニクル5



「俺たちが生贄なわけが、ないよな?」


「……なにそれ。大智君の自信ない態度は残念です」


 すずねは至って冷静だった。

 いや、それ以上に冷遇したいという気持ちがどことなく伝わってきたが、反論できる余地なんてなかった。


「気づいていないなら、それはそれ」

「――お兄さんとお姉さん、どっちから捧げようかしら?」


「面倒な自覚なしのスクロールさんですねぇ……」


 すずねの手には緑色の魔方陣が展開されていた。


「封魔の木箱よ、咎人の戒めとなりて封殺せよ」


 すずねが唱えると、か弱い女の子になっていたスライムは、木の檻に閉じ込められた。


「――すずね!」


 いま、何をしたんだ。

 俺は周囲の確認を怠らなかった。メイアナザーとコハルの面影は既になくて、王の椅子も消えていた。


 ……どういうことだ。

 一瞬、理解できなかった。


「大智君は、これを見ときなさい」

「はい……」


 すずねに指図された方向か……。


 当たり前のように木の檻の中を指差しされても……。

 しぶしぶ俺は、しかと見届ける。


 女の子になっていた黒いスライムは徐々に形失われていくところを。やがて、黒いスライムだったものは、ひとつの魔道具として姿を現した。


「これが重士朗コレクションのひとつ……」

「見た目はともかく懐中電灯ですね。明かりを照らす部分は何故か鏡となっていますが」

 すずねが解説するとおり、いかにも不思議な形をした魔道具となっていた。この魔道具が空中にぷかぷか浮かんでいるのは、魔法の影響だと思われる。


「この檻の中は強力な魔法を使用不可にする拘束力があります。こうなったら、スクロールは無力ですよ……ふふふ……」

 と口を滑らせた矢先に、すずねは木の檻を消失させる。


 そこで俺は掴みとる。戸惑いながら。


 未来を不安視する感情を押し殺して、ぎゅっと。

 胸元に持ってきて握りしめ続けると、魔法のような力でこの部屋から追い出された。



 ――気がつくと、俺たちは加美浜第二公園へと戻ってきていた。

 そして、俺が胸元で必死に押さえつけていたはずの懐中電灯は、本の形に変わっており、表紙に懐中電灯のイラストが描かれていた。


「これが、スクロールで……」


 俺はすぐさま頭をあげる。

 目の前に塔の建造物がうっすら見えていた。おそらく再入場できると思われる。


 すずねはというと、何か言いたがっていそうな様子で、俺を見つめていた。


「さ、さっきまで俺たちがいた場所ってどんな施設だったんだろ……」

「スクロールの発明所、といったところですね。そんなものいつ出来たのかとか、何の目的の為なのかはまったく意味不明なのですが、くまなく調べる価値はありそうですね」


「ふーん。あっ、そういえば女の子は……」

「佐那川ういさんのことです? わたしの足元辺りで気絶しているだけですね。あとで交番に連れて行きましょう」

「そうか……で、そこら辺にいる老人さんは」

「これらは死体です。ざっくりですが、スクロールの影響で不幸にも命落としてしまったというべきでしょう」


「えっ……命を落とす……?」


「さっきも言いましたが、魔法は使い方を誤ればそうなる可能性だって、じゅうぶんあり得ます。それは魔法そのもののみならず、魔道具でも同じです」


「魔道具でも、同じ……」


「さっさと交番に行って帰りますよ? わたしの用事も片付いてしまいましたし、あと始末はお姉さまに頼んでおきますから、大智君は合宿所でお茶でも飲んでゆっくり羽をのばしてくださいね」



これにて第2章は終わりです。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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