九蛾大智、行き詰まる
――しかし。
「ダメだ、文字すら頭に入ってこない……」
更に二時間ほど読み進めようとした俺は、完全に意気消沈していた。
手は止まっている。肝心のめくったページは僅か数ページ。
「大智君、これいるでしゅ?」
そっと本を差し出してきたのは、芽依だった。
「それは何だ?」
「うんとね、綾先生が魔法に関することを魔道工業科向けに書き出した参考書でしゅね」
「そんなものがあったのか……」
俺は大きく息を吐く。
ここで、もうひと頑張りしてみる気が復活しそうだ。
「ありがとう。でも……」
「どうしたのでしゅか?」
「いや。俺とか芽依ってまだ入学したてだし、焦らなくてもよかったのではないかと思えたんだが……。気分晴らしにお外でようかな」
「もう夕方でしゅが。あと、自分はこれから先輩達と買い出しにいくので、ちょっとお供もできなくて」
「そうか……」
「ごめんね」
「芽依は謝らなくて良いから」
俺はそれを言い聞かせた。
「……ありがとうでしゅ」
芽依は頷き、その場から立ち去った。
「さて、どうしたものか」
俺の目の前には、鍵と封印の概念についての本と綾先生の本がある。返却するにしても、本にはシールとか付いていないし、利用方法を誰かにもうちょっと聞いておけば良かったと後悔している。
「ほうほう。どちらも、この図書館に納められているものですね」
「へえー。ってすずね……!??」
「お姉さまとの大事な話は、ひと段落致しましたので」
ひょっこり目の前に現れる、すずね。
芽依の時といい、気配をまったく察知できなかった辺り疲労が溜まっているのか、目の前のすずねは果たして本物なのか……。
「館内で驚かれても、わたしはゴーストではありませんよ?」
「あっ、悪かった」
「別に誰かの善悪を決めにきたわけではありませんから」
きっぱり言い切るすずねは、俺の前にあった二冊の本を回収した。
「これを二カ所ある館内の出入り口付近にある、回収ボックスに入れておけば、気が向いた時にお姉さまかわたしが魔法で元の位置に戻します。だから何も心配はしなくて良いように設計されています」
「なるほど。ありがとな」
俺はその場で立ち上がった。
「ところで大智君――」
「何だ?」
「明日はどうされるのです?」
うーん。
図書館はひとまず、得ようとしたものは目を通したことだし。
「合宿所でごろごろして、過ごすかもしれないな……」
「なら――」
すずねは何かに期待している目をする。
「授業は明後日の月曜日からですし。ここはひとつ、鈴岡商店街に出向いてみてもいかがなんじゃないでしょうか」




