すずねの些細なネタ探し
「俺は気分晴らしに……」
「そーんなこと言っちゃって。乙女のわたしからは逃れられませんよ?」
「……。綾先生との個人面談はどうする気なんだ」
「ノープランでしょ。面談は一番最後にわたしが入ることで、綾先生の慰め役を担うつもりでいます。どうせ個人課題は筒抜けですし」
随分と余裕のある表情をしているすずね。個別課題に対する次の一手を考えているようにも思えた。
俺自身、あまり関与したくないところだが、俺の個人課題が重士朗コレクションのひとつに関わっている以上、すずねとは縁を切っても切れない状況である。
ここは諦めるか。
目的地のひとつ教えたくらいで、目の前の景色が変わるはずはないから。
「……図書館に行くんだよ」
「ほほう、奇遇ですね。わたしも今から図書館に行くところでした」
すずねはコクリと頷く。
そして、両目をキラキラと輝かせて、ポケットの中から丸いレンズ――小柄なデジタルカメラを取り出して俺の顔に向けていた。
「ずばり、貴方が求めてる本は!」
「ええっと。そうだな……」
なんだろう。
すんなりと答えることが出来ない。それを見かねたすずねは、すかさず丸いレンズを地面に向けた。
「なーんだ、面白みに欠けますね」
しれっとため口される。
「う、うるさいな……」
「事実です。とはいえ、図書館には様々な本が収容されています。好みのひとつやふたつくらいはすぐに見つけられるでしょう」
「……ほんとお前、何を期待しているんだ?」
「いまの大智君の期待値はゼロです。さっぱりですね」
「地味に傷つくぞ」
「こちらとしても、それはそれで別に良いのです。ふふふ……面白い記事を書かせて頂くだけですから」
「ふーん。面白い記事ってなんのことだろ」
「反応、薄っ…………あっ、大智君にはまだ言ってませんでしたね。ここは端末を特別に貸し出しましょう」
すずねは携帯端末を俺に向けた。
怪しげな勧誘ならお断りしたいところだ。
なになに。
――かみスポ!
ここ加美浜町、人口二万一千人程度の田舎町である。その町に設立されている尼野魔法学園より、あんなことやこんなことのスローライフな情報を世界に提供しております。
まさか、すずねはこれを制作する関係者?
仮にそうだとしたら――入学式の最中に取材されてた綾先生、ご愁傷様です。
「で、俺に何かあるのか?」
「さぁ?」
……さぁ?
すずねは、きょとんとする。
ここまで明かしておいて、変な言い逃れは出来ないぞ。
「かみスポはですね……。わたしと、わたしのお姉さまが共同して制作している、さぞかし面白おかしな週刊新聞なのですよ」
「俺の顔をみていても、面白いことは起きないぞ……」
「それはどうですかな……ふふふ」
すずねは、不気味な笑みをした。
ここは下手に騒ぐと、かえって変なことを書かれそうだ。とりあえず、足が止まっているので、一刻も早く図書館の中に入りたかった。
早歩きでその場で振り切ろうとする。――――するも、すずねは付いてくる。目的地が同じだから仕方ないか。
「あっ、大智君!」
後ろから声が聞こえる。しかと無視して図書館に近付いていく。
何を言われても知らない。聞こえないふりをする。
二十段くらいの階段を上った先には、図書館の出入り口があるから、そのまま前進あるのみ。
ここで振り返るのは時間の無駄だ。
「図書館の自動ドア、ただいま故障中で一週間くらい開きませんよ?」
「えっ……?」
すずねは注意喚起を出したつもりだった?
だが、既に遅し。
すぐさま激痛が走る。
俺の顔面は、見事に半透明な図書館の自動ドアに激突していた。




