とっておきの魔法
まだ詠唱が始まっていないけど、莉桜は沈黙する。
「アタシも本気ではみたことないかも。綾先生は炎属性が得意とするけど、それを遙かに上回るって噂は聞いたことがある程度で……」
「聖沙先輩……つまり、未知数ということか」
「ええ。って軽々しくアタシの名前を呼ぶんじゃない!」
嫉妬の目を再び浴びながらも、すずねのほうに視線を固定させて俺自身の気持ちを誤魔化しておく。
……それにしても。
なかなか詠唱が始まらない。
「うんと、どうしたんだ?」
「そうですね……とっておきと言っちゃったのですが、派手なものはお相手依存で強くなる魔法しか持ち合わせていないのですのよね。武力的な魔法の類いは嫌でも使いたくありませんので」
「的が必要というわけね。それならアタシがやるわよ」
「今回は結構です。ご遠慮します。お気持ちだけ、ありがとうございます」
「そう、それならさっさと使っちゃってね」
「……てか、クーデター起こすと言っておいてそれは何だよ」
「漁夫の利を狙うのは立派な戦術ですよ?」
「それが狙いか」
「ふふふ……どうでしょうね……」
不気味な微笑みをすずねは、唱える魔法の種類を決めた様子だった。
「あっ。ちなみにですが、魔道具を使わしてもらいますね」
そう言うと、ポケットの中から歯車のようなものを取り出した。
それから、巨大な黒い魔方陣を頭上に展開する。
「響け、虚空の扉。冥界より出でし紅蓮の剣よ、崩落の火柱となりてこの世のすべてを燃やし尽くしたまえ」
歯車のようなものは、魔方陣にどんどん吸い寄せられていた。
やがて、歯車が魔方陣と合わさると、歯車が急激に大きくなって魔方陣が消えた。代わりに現れたのは、燃え盛る炎の剣だ。
「エンシェントブレーカーっ!」
すずねが魔法名を叫ぶと、炎の剣は徐々に落下していった。その魔法からは、途轍もない違和感を感じてしまった。
「何なの、あれ……」
「うーんとね、大智君。いま魔法の源が、アレに取られちゃっている感覚がしてて……」
芽依は何度も両手を開いたり閉じたりして、自身の五感がおかしくなっていないか確かめていた。どうやらあの魔法には、魔法の源である魔力を吸収していく作用があるようだ。
「ところであの魔道具なんだが、俺がどこか見覚えのあるような……」
「そう思ってもらえるとは、流石です。大智君」
「どういうこと?」
「さっきわたしが出した魔道具は、重士朗コレクションのひとつです。大智君はたしかお父様から推薦を受けたんすよね。でも、試験はあったでしょ?」
「そんなのあったような。でも、たとえ試験があったとしても、所詮は適当な魔道具の解析で終わったような覚えがあるような、ないような……」
俺は深く考え込む。一風変わった試験をやった記憶を思い出しながら。




