九蛾大智、遅刻する
おはようございます。
新連載となりますのでよろしくお願いします。
視界の悪い森を抜けると、そよ風が押し寄せてきた。
「こんなところに広場があるのか……」
俺は長時間歩いていたこともあって、既に足の悲鳴が鳴り止まなかった。
広間はひと目はないが、それは平日だからだろうか。
ひとまず、ここでゆっくりしていけそうだ。
看板には『加美浜第一公園』という記述があった。
公園内には石で出来た大きなクジラのオブジェクトが設置されている。遊具はないが、腰掛けにピッタリそうな長方形のベンチがいくつかあった。
そのひとつに深く腰掛けると、足を伸ばして全身をほぐそうとした。
――――って、こんなところで休もうとしている場合じゃない。
俺は左手首に付けてる腕時計を確認すると、時刻は午前九時半を指していた。
今日は八時半から大事な入学式があるというのに、ほんと朝から何をやっているんだと思うと情けない。
だが、俺は悪くないから……。
この町に引っ越してきてまだ間もなく、今日の遅刻に関しては現在地がいまいち掴めていなかったのが大きい。
遅刻は確定だから、これから考えてもどうしようもないけど。
ベンチから起き上がると、俺がこれから二年間通う『尼野魔法学園』に目を向けた。
丁度、道路をひとつ挟んだ先に正門があった。
その正門の片隅、壁にもたれて紙類を広げている人がひとりいる。でも、俺はひと目なんて気にせず堂々と正門に向かう。
「……待ってろよ。新たな学校生活っ!」
声にとても気合いが入っていた。
車に気をつけながら横断歩道を渡った俺は、着実に学校へ近づいていた。
「おや……遅刻者ですかね?」
正門を素通りしようとした時、声を掛けられた。
「いや、その……。ごめんなさい。道に迷って遅刻してしまいました」
「奇遇ですね。わたしも遅刻者です」
「……どういうことだ」
「そのまんまの意味ですよ?」
手に持っている新聞紙が折り畳まれると、小柄な体格をもつ白髪の美少女が顔を合わせてきた。
「わたし、尼野すずねと言います。よろしくお願いします」
「ああ、俺は九蛾大智だ。よろしくな――というか、尼野って名字……」
「それは気にしないほうが良いですよ。お父様が学園長なだけで」
「――――!??」
無意識に握手を交わそうとしていた、俺の右腕が止まる。
いま目の前にいる、赤と黒のしましまリボンと、白いフリルがついた黒い制服を身につけて、頭に黒いベレー帽を被っている女の子があの学園長の娘だなんて思わないわけで。
「その右手は何ですか? ひと目惚れですか? この可愛い学園長の愛娘を遠方にかっさらって、俺のものにしたいという願望を抑えきれずにいるのですか?」
「そんなことは考えていないって!」
「それは残念です。それなら――いま丁度、入学式の真っ只中なので飛び入り参加して、クーデターを起こして大魔法戦争勃発の引き金にするとか」
顔がニヤリした女の子は、俺に何かされることを期待していた。見た目こそは、尼野魔法学園の女子生徒で間違いないんだけど、この子は他の学生とはちょっと訳が違う。
「しないって。というか、そんなことしたら俺を推薦入学させてくれた、学園長の尼野幸村に失礼だって」
「ちぇっ……つまんない……」
そう言われながら、そっぽを向かれた。
「……悪く思うなよ」
「つーん。九蛾大智君がなにか面白いことを起こす気になったら、後ろについていきますから」
「うーん、それは困るような……」
手に持っていた新聞を広げた女の子は、視線をあからさまに俺のほうへと向けていた。
とりあえず、入学式が終わるまで待ったほうが身の安全が保証できそうだった。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
評価はこのページの下側にあります。
面白ければ☆5つ、つまらなければ星1つでも付けて頂けると幸いです。
『☆☆☆☆☆』をタップすればできます。
評価して頂けると、作者の励みにもなるのでよろしくお願いします。
また、ブックマークを付けて頂けると、次回以降スムーズに続きから読めますのでお気軽にブックマークをお願い致します。




