1-4 俺が詩人って冗談ですよね?
俺とアリサと、その謎のドラゴンは、そのまま3日間、街道に沿って歩き続けた。
いい加減、休ませてくれよ。
そう、俺が言いかけたとき、アリサが、前方を指差して言った。
「セランの街です。あそこで仲間が待っています」
仲間?
俺は、よろよろと歩きながら、外壁の方を見た。アリサは、それがこのクリスティア王国の最果ての町であり、要塞都市であるセランだと教えてくれた。
街の入り口には、長い行列が出来ていた。
俺たちは、その列に並んで待っていた。
周囲の人々がなぜか、俺たちのことをじろじろと見ているので、なんだろうと思ったら、アリサが、そっと囁いた。
「あなたの連れているドラゴンを見ているんです。魔獣をテイムしている者は、珍しくはありませんが、ドラゴンをテイムしているのは、珍しいですからね」
「そうなんだ」
俺は、はっと気づいた。
こいつにまだ、名前をつけていない。
「アズミ」
俺は、ドラゴンに呼び掛けた。
「お前の名前は、アズミ、だ」
「きゅう」
ドラゴンが嬉しそうに一声鳴いた。
また、ピコン、という音がしてウィンドウが開いた。
『ドラゴンを友とする者の称号が得られました』
そうしている間に、俺たちの順番がきた。
アリサは、入り口の門番たちに通行証を2枚見せた。
「旅芸人の一座、『ガルセル一座』の者です。先に、仲間が街に入っていて、私たちは、遅れてきました」
「芸人?あんたが吟遊詩人なのはともかく、この子竜をつれた奴が、 詩人てのは、信じられないな」
衛兵にそう言われて、アリサは、にっこりと笑った。
「人は、見かけによりません。これでも、この子の言葉に何人ものお嬢さんがたが涙を流したもんですよ」
「へぇ」
衛兵が言った。
「じゃあ、なんか、1つ、うたってくれないか、兄ちゃん」
「はい?」
俺は、アリサに祈るような目で見つめられて、俺は、焦った。
無茶ぶりするなよ!
仕方なく、俺は、小声でぼそぼそと言った。
「今日は、舌を、その、洗濯に出しています」
一瞬、その場が、静まり返った。
えっ?
もしかして、俺、まずいことやっちゃったの?
俺が、そう思ったとき、衛兵が吹き出した。
「舌を洗濯してるってな?確かに、詩人だな、兄ちゃん」
衛兵たちは、笑いながら俺たちを通してくれた。
「もうすぐ、セランの春の祭りだ。しっかり稼ぎなよ、兄ちゃん」
アリサは、衛兵たちに礼を言うと俺の手をひいて門の中へと急いで入っていった。
街の中は、かなりの人出で、俺たちは、人波に揉まれて、はぐれそうになった。アリサは、黙ったまま、俺の手をぎゅっと握って歩いていった。
しばらく人の流れに逆らって歩き続けると、少し、開けたところに出た。
アリサは、頬をうっすらと染めて、俺の手を離した。
「あの、ごめんなさい」
「い、いや、俺の方こそ、ごめん」