2-6 春の嵐
2ー6 春の嵐
「岩穴が見えたぞ!」
激しい突風の中、ジルが声をあげた。
「みんな、もう少しで目的の場所につく。がんばれ!」
俺たちは、遠くに霞む崖にホッと息をついた。
さっきから落ち始めた雨粒が体に打ち付けていた。俺は、奴隷たちの脇を歩きながら、遅れるものがいたら励ましたりしていたが、正直、もう、かなりきつかった。
荷物は、竜車とストレージの中だとはいえ、この嵐だ。濡れた体は、冷えきって足取りは重かった。だが、奴隷たちは、文句も言わずに歩き続けた。
あの姫ですら、文句を言わずに竜車に揺られていた。
切り立った岩山を前にして、俺たちは、立ち止まった。
女王に俺たちが貰った土地の中心にある巨大な岩山の回りには、なだらかな丘があり、その前には、広大な土地が広がっていた。
「ここが、新しい国になる場所なのね」
姫が呟いた。
その辺りは、はっきり言って、いや、はっきり言わなくっても、ただの荒れ地だった。
草も木もはえていないただの荒れ地。
ところどころに沼みたいな湿地が広がっているのが見える。
なんか、嫌な感じの場所だった。
俺たちは、とりあえず、岩山の下にある洞窟に奴隷たちを導いた。幸いなことに、洞穴の中は、乾いていた。
順番にアリサが生活魔法で濡れた体と服を乾かしていく。
俺は、入りきらない奴隷たちをどうすればいいのか、考えていた。
『空気壁を張りますか?』
ピコンとウィンドウが開く。
空気壁?
なんだか知らないが、今、役に立つなら、使いたい。
そう、俺が思うと、周囲の空間がぐんっと拡がっていくのを感じた。
「雨が・・」
なんだかわからないが、何か、透明な壁のようなものが出現してその洞穴の周囲の雨風が防がれていた。
でも、地面は、びしょびしょのままだった。
これでは、火も焚くことができそうにない。
『地面を乾かしますか?』
ウィンドウが開いて、スキルが示される。
『スキル 乾燥』
なんだ、そりゃ?
俺は、それを選択してみた。
濡れた大地は、俺の回りから徐々に乾いていった。
心なしか、大気も暖かくなっている。
俺たちは、ストレージから取り出した食料を分けあって食べ、毛布を配った。
奴隷たちは、身を寄せあって眠り、俺たちも竜車の回りで篝火を焚きながら、交代で休んだ。
ゴウゴウと魔物の叫びのような風雨の音がしていたが、みな、疲れきっていてよく眠っていた。
だが、 俺は、これからのことを考えると、なかなか寝付けなかった。