2-5 サンドワーム襲撃!
2ー5 サンドワーム襲撃!
「何が、奴隷を1000人用意しよう、よ」
姫が竜車に揺られながらぶつくさ文句を言った。
「こんな連中、ていのいい厄介払いじゃないの」
確かにな。
俺は、認めざるを得なかった。
女王が用意してくれた奴隷たちは、年寄りと女子供ばかりだった。
「仕方がありません」
アリサが言った。
「女王も言われていたように、砂漠の民は、長期にわたる魔族との戦いで、男たちは、多くが戦に出てしまっているのです」
「こんなの、どうしようもないわ」
姫がなおもブータレた。
「いったい、どうやって、これっぽっちの奴隷で国を造るっていうの?」
俺たちは、砂漠の民の土地と魔物の国との間にある中立地帯である荒野へと向かっていた。
地竜のひく荷車を先頭に1000人の奴隷たちを率いて。
砂に足をとられた老奴隷が地面に倒れ込むのを見て、姫が溜め息をついた。
「先が思いやられるわね」
俺は、竜車から降りると老奴隷に駆け寄り助け起こすと奴隷たちに向かって声を張り上げた。
「みんな、頑張って!もう、2度と虐げられることのない自分達の国を造るんだ!」
奴隷たちがざわめいた。
「あの」
俺は、シャツの裾を引っ張られて下を向いた。
猫耳の黒髪の少女が俺を見上げていたので、俺は、優しく微笑んだ。
「何?」
「本当に、あたしたちの国ができるの?」
「ああ」
俺は、少女の頭を軽く撫でた。
「みんなの国を造るんだ」
少女の表情がぱぁっと明るく輝いた。
「あたしたちの国?みんなの?」
「ああ、そうだよ」
急に、前方を進んでいた竜車をひく地竜が鋭い鳴き声を発した。
「サンドワームだ!」
俺たちの進んでいる方向から大地がもこもこと盛り上がり巨大なミミズのような魔獣が現れた。
マジかよ?
俺は、涙目で天を仰いだ。
アズミちゃん、俺を守って!
「カナメ様、奴隷たちを頼みます!」
ジルが叫ぶと、手に大剣を握りサンドワームへと駆け出した。
いや。
俺は、ジルの後を追いながら手を握りしめた。
無理だろ。
俺の手の中に黒色の弾丸が現れた。俺は、腰のホルスターにぶら下げていた魔導銃を取り出してその銃弾を装填した。
「ジル!下がれ!」
俺は叫ぶと、銃をサンドワームへ向けて撃った。
サンドワームの前に魔方陣が展開され、すぐに地獄の業火が奴を包んだ。
「これは・・」
ジルが頬を流れる汗を手の甲で拭った。
サンドワームの断末魔が辺りに轟く。
ずしん、という大地の揺れと共にサンドワームが崩れ落ちた。
「よくやったわ!カナメ」
姫が、偉そうに高笑いしながら、俺の方へと歩み寄ってきた。
「誉めてあげるわ」
「あ、っそ」
俺は、素っ気なく言うと、銃をホルスターに戻してジルの方へと向かった。
「大丈夫か?」
「ああ」
ジルが大剣を鞘に納めて、俺を振り向いた。
「本当は、私1人で十分だったのですが、ご助力ありがとうございます」
なんか、かわいくねぇな!
主従揃って、かわいくねぇ!
俺たちは、手分けしてサンドワームの被害がないかをざっと調べた。
奴隷たちは、怯えていたが怪我人は1人もいなかった。
アリサは、俺のアズミちゃんを肩に乗せて奴隷たちの間をすり抜けてきた。
「特に、問題はないみたいです」
「そうか」
俺は、サンドワームの解体をしているジルたちの方へと向かった。
ジルは、鋭いナイフで焼けたサンドワームの腹を切り裂いていた。
なんか、こういうの苦手だな。
俺は、ごくっと喉を鳴らした。
ガキッと鈍い音がした。
「魔石、だ」
赤色の魔石を、ジルは、俺に放り投げた。俺は、それを受けとるとホルスターの横にぶら下げている皮の袋の中へとしまった。
ジルたちは、手早くサンドワームの解体をしてしまった。俺は、解体したものをストレージに収納した。
「先を急ごう」
俺は、ジルに言った。
「できれば嵐になる前に目的地に着きたい」
ジルは、遠くの空を見て頷いた。
黒い雷雲が遠くの空に立ち込めていた。
荒野に春の嵐の気配が近づいていた。