楽園追放
不気味な怪物は僕へ向かって走ってきた。僕は急いで逃げた。あの怪物は僕を確実に仕留め、餌にすることは明らかだった。
そして残念なことに、僕はまだ僕がいる建物の全体を把握していなかった。しかし、ここでじっとしているわけにはいかない。僕は走って逃げた。それはもう全力で走った。
とりあえず、僕は部屋を飛び出した。幸いスライドドアが開いてくれた。しかし、スライドドアは怪物たちも通してしまった。そして残酷なことに怪物の方が僕の足より早い。距離はどんどん縮まっていった。
もうだめだ、食べられる!
僕はそう心で叫んでいると、倉庫にたどり着いていることに気付いた。そしてそこには一台のキャタピラの気付いた牽引車があった。どうだろう?僕は前の世界では自動車を運転できたから、運転できるかもしれない。悠長なことは言ってられない。僕は急いで運転席に飛び乗った。幸いハンドル付きでAT仕様らしい。そして本当に幸いなことに、僕が座った途端にシステムが作動した。まるでご都合主義な展開だが、いち早く逃げなくては!
もうエンジンも掛かっているからアクセルを踏んだらとてもスムーズに動いた。なんだ、この世界でも運転できるじゃないか。全速力で化け物から逃げようとした。しかし、希望は絶望へと変わっていった。この牽引車は50キロぐらいしかスピードが出なかったのだ。それに比べて怪物はそれ以上のスピードで追いかけてきた。さっきより速いじゃないか!
僕はいよいよ焦った。本当に生きた心地がしなかった。いや、この状況だと僕はもう食べられて死ぬ。全く、あんな苦しい世界から楽園へやって来たと思ったら、もう追放されてしまうのか。この数年は楽しかったのに。人からは軽蔑されないし、厳しいノルマもプレッシャーも規範も無い。僕の好きなことができるこの楽園から僕ははじき出されるのか。いや、もう僕は死ぬんだ・・。死ぬのはかまわない。僕ははっきりそう思った。でももう少しだけ生きたい。僕はそう思った。まるで走馬灯を見ているようだった。怪物は僕へ飛びかかり、今にも僕を仕留めようとした。
そのとき、強力な閃光が走った。だと思ったら怪物は焼きちぎれて動かぬ屍になっていた。もう一匹は怖じ気づいて一目散に逃げていった。
僕は何が起こっているのか分からなかった。そのまま呆然としていると、向こうから何かがやってきた。それはアニメに出てきそうな6~7mぐらいの高さになるロボットに見えた。
そいつは僕の方へ歩いてきて、こう言った。
「えーと、大丈夫?怪我はないかい?」
何だか優しそうな男性の声でそう僕に話しかけた。