便利な生活も終わりを告げる
とても贅沢な時間を過ごした。もうノルマに追われることはなく、高い税金を払う必要もない。そして自分を見下す人もいなければ憐れむ人もいない。この広い空間で衣食住が整い、やりたいこともできるし運動もできる。そして自分のペースで努力もできる。
僕は何だか前より明るくなったと思う。おそらく僕がいわゆる転生していて、転生前の世界では常に能力を高め、人並みにならなくてはといつも言い聞かされていたし、世間もそういう圧力をかけていたように感じた。そうした環境では僕は自分なりに頑張っても全然認められなかった。なぜなら、努力したかは結果と他人の評価によって判断されるのだから。そうじゃない、もっと世間は甘いし、優しいと思う人もいるだろが、僕にはとうていそうは思えなかった。
しかし、この空間では違う。僕一人で生活が完遂するし、僕の要望がすべて叶う。おそらく前の世界では一生働いても手に入らない贅沢な体験だった。
こんな贅沢な暮らしが、1年、いや、2年続いた頃だろうか?この生活が突然終わった。突然モニターが沈黙したのだ。モニターはいくらか呼び掛けても、二度と答えることは無かった。当然僕は絶望して焦った。そして、明るく暖かみのある照明は何だか無機質な明るさへと変わっていた。何だか全てがコントロールできていない様子であった。
幸い、風呂はまだお湯が出た。僕の目から見ても、浴槽にお湯を溜めるやり方を理解できたから、しばらくは体を清潔に保てた。
食料が無いか探していると、またしても幸いなことに、大量の備蓄された保存食があった。僕が住んでいた部屋以外にも多くの広い部屋があった。レトルト食品も缶詰もあった。僕はある程度その保存食から工夫して食事を作った。今までの便利な生活で僕は堕落はしなかった。そういうことが、人間を退化させるとは限らない。
そうした生活が恐らく半年たった頃だろうか?僕はいつものように食事をして、運動をしていると、別の部屋から何だが猛猛しい声が聞こえた。何だか猛獣のような、猛禽でもあるような不気味な声だ。僕はまだその恐ろしさを理解していなかった。様子を見に行ってみる。
そうしたら、そこにいたのは不気味な見た目をた4本足の生物だった。ライオンかゾウに似てそうで似つかない、とにかく危険な見た目をしていた生物だ。
向こうもこちらに気づいた。明らかに僕を獲物と見ていた。そのまま僕の方へ勢いよく走り出した。向こうはかなり空腹な様子だ。僕はたちまちに食べられると察し、急いで逃げ出した。僕は生きた心地がしなかった。