辛い現実と自己否定
登場人物
海斗 男性 36歳。うだつの上がらないサラリーマンらしい
今日も残業だ・・・。そう心に浮かぶ30代後半の男の名前は海斗。うだつの上がらない中太りの男は今日もデスクに溜まる書類相手に格闘していた。残念ながら仕事が溜まる理由は本人に原因があった。決して遅刻をしたり仕事をサボることは無い。至って真面目に見えるのだが、それが通用するのは学生時代までで、真面目なのは当たり前で企業に務めるのであればいかに周りと調和して利益を出すのが一番大切である。しかしこの男はそうではないのだ。仕事の流れを阻害し、社員の間で上手く流れているものをいつも乱してしまう。厳しい人であればなんでこんなに出来ないんだと常にイライラし、心を乱し、ストレスを与える。優しい人であれば、かわいそうと同情したり哀れんで良いところを見つけようとすると思うが、海斗が人並みであればそもそもそんなことを思わせる必要がないのだ。
よって海斗という存在は、はっきり言ってその会社では必要ではない。はっきり言ってゴミであった。しかし、海斗がたとえ転職するといっても海斗を必要とする会社などはないだろう。この世の中は昔と比べて大変便利で豊かであった。人々の考え方も大変優しくなった。しかし、それを支えるには多く労力と繊細さが求められる。それを担う人間もある程度の能力が求められる。それが出来ない人間は、優しく、時には厳しく、それが差別だと思わせず、あくまで本人の問題として社会から排除されていくのだ。
上司がやってくる
「いつまでかかってんの?僕はもう帰るよ。君はそんなに残業が好きなんだな。これくらいのことが出来ないなんて、仕事舐めてるの?」
「・・・すいません。片付いたらすぐに帰ります。」
「全く、嫌になるよ。君のような人でもお金がもらえるなんて。」
「・・・すいません。」
海斗は本当に疲れていた。はっきり言って海斗にこなせる仕事量ではない。彼は常に仕事に振り回されていた。そして上司は常にネチネチと嫌みたらしく小言を言う。そんな上司でも悲しいニュースには涙を流していた。優しいのだ。しかし、海斗のような存在が彼をイライラさせるのだ。海斗がいなけれ上司は平穏でいられるのだ。しかし、海斗には限界であった。
海斗はなんとか仕事を終わらせた。腕時計を見たら、もう深夜0時を過ぎていた。疲労がずっしりと肩にのしかかり、足が重くなる。人間、疲労が溜まるとマイナスなことが頭によぎりがちになる。
そういえばいままでもそうだ。僕は本当に昔から不器用かつ運動音痴であった。おまけに勉強もそんなに出来ない。努力をするのも苦手だった。いや、人以上に優れていたいと思うことが苦手であった。そんな人生をまた思いだし、上手くいかなかった出来事が走馬灯のように浮かんできた。その思い出がどんどん僕を追い詰めていった。暗い町中を歩いていた。それがますます僕を追い詰めていた。
僕は周りが見えていなかった。駅の前の横断歩道にも気づかなかった。人もいなかったから、信号が赤のことも気づかなかった。周りはとにかく暗いものだと思えた。そうであるから、僕に向かってくる大型トラックの存在に気づくはずは無かった。
「危ない!!!」
誰かが叫んだ。その声に僕も考え事を中断し、振り向いた。見えたのは、目の前に迫るトラックであった。
ドッ!ギギギ!!!!
一瞬そう聞こえた。しかし、その後に何も聞こえなかった。もう意識も無かったのだ。