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誤訳怪訳日本の神話  作者: 大橋むつお
33/61

33『日本史上初の駆け落ち 追いかける親父』


誤訳怪訳日本の神話


33『日本史上初の駆け落ち 追いかける親父』    




 オオナムチが鏑矢を持って焼け野原から帰還して、万策尽きたほどでは無いのですが、スサノオはやけ酒を飲んで寝てしまいます。



 ちょっと前のスサノオなら暴れたでしょうね。


 愛するものには見境が無くなるのがスサノオです。高天原では、亡き母にそっくりな姉のアマテラスが冷たくて、その歓心を買うために暴れまわりました。ヤマタノオロチをやっつけたのはクシナダヒメに恋をしていたからこその鬼神の働きでありました。それまでと同じキレやすい男なら、きっとオオナムチに体を張った勝負を挑んだでしょう。


 それが、やけ酒のふて寝ですから、そこらへんの親父と変わらない反応です。


 愛娘を持っていかれる父親の浅はかさと哀感に満ちております。


 オオナムチも、そんなスサノオを「このクソオヤジ!」などと抗うこともなく、ちょっと困った顔をしただけで、同じ屋根の下で普通に寝てしまいます。


「……ねえ、起きて、起きてよオオナムチ!」


 方やまんじりともできなかったスセリヒメは、こっそり起きると、ぐっすり寝ているオオナムチを起こします。


「え、え……?」


 起こされたオオナムチの頭はすぐには回りません。


「シーッ! わたしの言うこと、しっかり聞いて!」


『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を読んだ時に、このスセリヒメの下りを思い出しました。


 寝ている兄貴に馬乗りになって頬っぺたを張り倒して「人生相談があるの!」と迫って、大きくドラマが展開していく、あのシーンと同じポテンシャルを感じました。


 スセリヒメは生太刀いくたち生弓矢いくゆみやを袖に包み持って「これを持って駆け落ちしよっ!」と迫ります。モノは違いますが、桐乃が京介を自分の部屋に連れて行って禁断のコレクションを見せて、自分の趣味への共感を強いるシーンと被ります。


「ス、スセリは大胆だなあ……」


 押し切られて、オオナムチはスセリと二人で根の国を脱出する決心をしますが、暗い中なので天沼琴アメノヌゴトを踏んでしまいます。


 ポロロン


「「しまった!」」


「ん……あ、おまえら!?」


 その音で目を覚ましたスサノオが追いかけてきます。


 ヤマタノオロチをギタギタにやっつけたスサノオですが、娘が好きな男と逃げる姿を見ては怒りも冷めてきます。

 娘が親を捨てて好きな男と逃げていく。なんと言っても日本史上初めての駆け落ちです。神話世界とは言え、娘に駆け落ちされた初めての父なのです。おそらくは寂しさだけが胸を締め付けたでありましょう。


 追うことを止めて、両手をメガホンにして、若い二人に声をかけます。


「若造! その太刀も弓矢もくれてやる! それを持って、どこへでも駆け落ちしろ! いいか! その代わり、娘を、スセリヒメを幸せにしてやるんだぞおおおおおおお!!」


「お、おとうさん……」


「いいか、娘の為に高天原まで届くような立派な千木のある宮を建てるんだ! 名前も、婿に相応しいのに変えるんだ! ウツシクニノタマかオオクニヌシと名乗るんだぞ!」


 そして、オオナムチは先につけられたアシハラシコオ(日本一の醜男)からウツシクニノタマの神になり、スサノオのところから持ってきた武器で兄弟のヤソガミたちを従えてヤチホコの神、そして、偉大な国の神という意味の大国主神、つまり大黒様になっていきました。


 このオオナムチの変遷ぶりがモチーフになって『ノラガミ』の大黒のキャラが生まれますが、それは紹介にとどめ、先に進みたいと思います。


 オオナムチ、いえ大国主の神さま生活は、始まりドラマチックな割には、なかなか上手くは進みません。


 次回は、大国主とスセリヒメのその後をたどってみたいと思います。


 


 


 


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