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誤訳怪訳日本の神話  作者: 大橋むつお
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32『やっぱり、こいつは大っ嫌いだ』


誤訳怪訳日本の神話


32『やっぱり、こいつは大っ嫌いだ』    





 スサノオの意地悪の三回目の続きです。



 一回は蛇の岩屋、二回目はムカデの岩屋に放り込まれますが、スセリヒメが機転を利かせて事なきを得ました。


 三回目、スサノオは自慢の強弓で鏑矢を撃って、それを取りに行ってこいとオオナムチに命じます。


 弓矢の射程距離はせいぜい400メートルですから、小学校の外周を一周するほどの距離。


 ひとっ走り行ってこようと張り切るオオナムチですが、スサノオの矢は見渡す限りの草原の中に落ちてしまっています。


 草はオオナムチの腰の高さほどに繁茂していて、容易に見つけることができません。


「ええと……どこに落ちたかなあ……」


 オオナムチという若者は、言われたこと、命ぜられたことに疑問を持ちません。


 白兎のところでも兄のヤソガミたちに言われるままで、怒るということがありません。


 手間山の赤猪と偽って真っ赤に焼けた岩に押しつぶされ……これは一度死んでいます。体を押しつぶされたうえに、石焼き芋のように焼かれてしまいますが怒った様子がありません。


 スサノオの二度のいじめに遭っても、翌朝には「おはようございます」と挨拶しているようなありさまです。


「こいつ、どんな神経しとんじゃ!?」


 スサノオは、逆に切れやすいオッサンです。


 感情の量が大きい男です。


 子どものころは母親のイザナギが居ないと言っては手足をジタバタさせてしょっちゅう地震を起こしていましたし、高天原でも姉のアマテラスがブチギレて天岩戸に隠れるほどの悪さをします。


 そもそも、高天原に行ったのもスサノオの乱暴を持て余したイザナギに「お姉ちゃんのアマテラスには母の面影がある」と父に言われ、矢も楯もたまらなくなったからです。その勢いは凄まじく、アマテラスは「バカ弟が攻めてきた!」と、高天原の軍勢を引き連れて出撃したほどです。


 ヤマタノオロチを退治した時は、痛快な働きをしますが、その原動力は彼の大きすぎる感情量です。


 古事記を素材にした東映アニメに『わんぱく皇子のオロチ退治』がありますが、ここでのスサノオはオロチをやっつけるため神話世界第一の名馬と言われたアメノフチコマを乗りこなします。


 アメノフチコマは「あんたを乗せてやってもいいけど、あたしの走りっぷりを〇十分(時間は忘れました)瞬きせずに見てんのよ!」と言われ、見事瞬きせずに見極め、見事自分の乗馬にしています。


 こういう激しく感情量の多いオッサンは、何を考えているか分からない、感情の揺らめきさえ見えないオオナムチは、たまらなくイライラする若造なんでしょう。まして、愛娘のスセリヒメがぞっこんなのですから、いらだちはマックスなのです。


 スサノオは、オオナムチが正直に鏑矢を探している草原に火矢を射かけて焼き殺そうとします。


 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 スセリヒメはムンクの『叫び』のような悲鳴をあげます。


 草原は一晩燃え続け、とてもオオナムチは生きていないだろうと思われました。手間山の赤猪の時も、オオナムチはちゃんと焼け死んでいますから。


「いいか、ああいうなまっちろいクソ男は、こういう死に方をするんだ。目を覚ませスセリヒメ!」


 理不尽な説教を垂れる父親にスセリヒメは言葉もありません。


 すると、ブスブス煙る焼け跡の向こうから声がします。


―― おとうさーーーん、ありましたよーーーーー ――


 呑気な顔で焦げた鏑矢を掲げてノンビリと歩いてきます。


「!?」


「オオナムチ!」


 スセリヒメはピョンピョン飛んで喜びます。


 スサノオは苦虫を嚙み潰したような顔をして思いました。


―― やっぱり、こいつは大っ嫌いだ ――


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