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RAS

作者: 京本葉一
掲載日:2020/11/16

 いつものように登校してきたタカハシは、いつものように睡眠不足であるらしい。声をかけると、あくびをしながら挨拶にこたえ、ぼーっとした表情のまま後ろの席にすわった。そのまま寝るかとおもったが、気になることがあるようだ。


「最近、犬、多くない?」


 タカハシがたずねてきた。


「そうか?」

「このところ、散歩している犬を、よくみかけるんだけど」

「日和がよかったからじゃないの?」

「それは、まあ、そうなんだけど……」


 タカハシは納得していないらしい。

 偶然という言葉で片付けることが難しいのだろう。


「RASって知っているか?」

「らす?」

「人間の脳にはRASという機能がある。膨大な情報のなかから、いつも見ているもの、関心のあるものを優先的に選択して、それ以外の情報をいらないものとして処分する。そうやって知覚に負担をかけさせないようにしているらしい」


 見えているはずなのに認識できない。

 意識が変わると、見えなかったものが見えてくる。


「このところ犬をよくみかけるようになった、ということは、最近になって犬に関心を持ちはじめた、と考えられるわけだが、心あたりは?」


 タカハシは斜め上をみていた。

 思い出そうとしていたが、うまくはいかなかったようだ。


「もともと好きだし、最近になって、関心を強めたおぼえはない」


 タカハシが嘘をつく理由はない。


「となると、人間の脳がそなえている、なんかすごい機能がはたらいたと考えるべきかもしれない」

「つまり?」

「最近になって関心をむけた、なんらかの疑問において、その答えは犬であると、脳が勝手に答えを導き出したのではないだろうか。そのメッセージとして、犬をよくみかけるようになった可能性はある」

「なるほど」


 タカハシは心あたりとなる疑問を思い出そうとしていた。


 なにを考えているのかわからない。眠そうな顔だ。健康的な生活が必要であることは間違いない。もうちょっと睡眠習慣に意識を向けられないものだろうか。運動もかるい散歩くらいなら……。


「……犬じゃなくて、犬の散歩をしている人をみかけるようになったんじゃないか?」

「ん?」

「いやだから、犬をつれて歩いている人間に」

「ああ、そっちの犬じゃないから」

「はぁ?」

「犬耳のほう」


 タカハシは大きな欠伸をすると机に身体をあずけた。


「おいっ、タカハシ! タカハシー!!」


 タカハシは熟睡モードに入っていた。

 どれだけ叫び、身体をゆすろうとも、情報を吐かせることはできなかった。

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