少年兵たち
「さて」
こちらはこちらではじめようか。
「ねえ、出てきてよ」
しーん。
まあ、出てこいと言って出てくるものでもないか。
「ボクを殺す気はないんだよね? それはわかってるんだよ」
かなり本気っぽく襲われはしたけど、ボクらならあの程度は退けられると聞かされていたのだろう。
それはともかく、当然のように返事はない。
もうすでに声の届かないところまで離れてしまっていたら、ボクまぬけだな。
「脅しをかければいいって命令でしょ? ボク以外は殺せたら殺してしまえが追加命令かな?」
弟がボクを殺すはずがない。
ボクが死ねばどこかで新たな魔王が生まれることになる。そしてその瞬間に、彼の魔王の弟の地位は消えてなくなるのだから。
「だから、もう無駄な戦いはやめて話そうよ」
しーん。
「奥様」
「もうちょっと待って」
彼女の標的はきっとボクだけだ。
であれば、いまもこの場で様子を窺っているに違いないんだ。
「出てこないなら、ギデオンの方へ行っちゃうよ。合流してあっちの勇者をぶち殺しちゃうぞ」
ま、さすがにこんなセリフが脅しになるとも思わないけど。
ざっ。
「え」
「はい?」
「あら」
……出てきたよ。
よく見ると小柄だなぁ、リリーより頭一つ小さい。子供?
「キミ、いくつなの?」
「……」
だんまりですか。
「名前は?」
「……」
「そのくらい教えてくれてもいいんじゃない?」
「LM12-Kなの……」
「型式番号じゃなくってさ」
彼女の名乗りを聞いたヘンリが、そっとボクに耳打ちしてきた。
「奥様。記録ではLM型の製造数は9体です」
無言で小さく頷く。
「キミ、勇者だよね?」
「(こくり)」
肯定か。
「LM型の勇者なのに、勇者の自覚があるの?」
「……?」
かわいらしく小首をかしげている。
覆面で顔が見えないのが残念だ。
「うん、いいや。それで、名前は?」
「名前……LM12-Kって呼ばれてるの」
「ああ、そうなんだ」
調整しておいて名前も付けていないのか。
露骨に使い捨て感満点なんだけど。
って。あれ?
「ラウラ、キミもなにか質問してみたら?」
「え? あたくしも? えっと、そうですわね……あなた子供ですわよね? お母さんは?」
「……」
手持ち無沙汰だったラウラに振ってみたが、回答無し。
彼女は小さく肩をすくめた。
さて、ここで同じ質問をボクからしてみる。
「ねえ、キミのお母さんの名前は?」
「……お母さん、知らないの」
「なっ。あたくしをバカにしてますの??」
気色ばむラウラを横目に、ボクは確信した。
これ、魔王の強制力が働いてる。
「奥様」
「うん」
ヘンリに促されるまでもない。機能停止命令だ。
「ねえ、キミ」
「なんなの?」
あれ。機能停止だけができない?
どういうことだ。
ふむ。まあ、考えていても仕方がない。
絶好のサンプルが向こうからやってきたんだから、やることは一つだ。
「ちょっとこっちへおいで。ここに座って」
LM12-Kは言われたとおりに近づいてきて、ボクの前でしゃがみ込んだ。
うーん、素直だ。なんかかわいくなってきたぞ。
「エーレン、ちょっと不用心ですわよ」
心配したラウラが隣にやってくる。
ちょうどいいから手伝ってもらうか。
「じゃあ、ここ。この子の両肩を……そう。その角度で押さえておいて」
「キミ、ちょっと大人しくしててね、痛くしないから」
――《調査》
そう、ここ、ここを右。そしてその奥。そうだ、その隣。
この位置に勇者システムへ干渉できる穴があったはず。それはしっかり封じられてるね。
なら、うん。
魔術を解いていこう。
なにやら、見覚えのある、懐かしい感じすらするコードを、順番に、少しずつ、人のわかる言葉へと変換していく。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
いつつ、むっつ、なな ――
「ふぎゃぅっ!!」
突然に体が痙攣した。
なんだいまの。誰かボクの中に入ってこようとした?
「はぁ……はぁはぁはぁ」
「エーレン、どうしたの!」
「奥様しっかり」
「あ、ああ、うんうん、だいじょうぶ」
ヤバ。自立型魔術防壁に攻め込まれかけた?
うそでしょ。魔王のこのボクが?
……あ、そういえば、スタニスが言ってた。
二人が分裂したときに、魔王コアはボク、それを守るファイアウォールは彼に別れてしまったって。
いまのボクの魔王コアは丸裸のわけだ。
もっとも、壁がなくたって、そんじょそこらの魔術師に敗れるほど、魔王の精神はもろくないけどさ……。
ともあれ、なるほど、見覚えがあるはずだ。
この防火壁って、もともとボクを守っていたもの。
正確には、それの簡略版として移植されたものだ。
……てことは、やっぱりこれは、そうか。
そんなことができる人物といえば。
「っ……ぐっ! ああああああああ」
「え」
呆けているボクの前で、突然にLM12-Kが苦しみ出す。
「何があったの」
「わかりません」
「急に暴れ出して……うわ、なんですのこの馬鹿力」
叫びまくり転げ回るその姿に、ボクらはなにもできない。
「奥様、これはLM型が勇者を自覚したときの拒否反応では」
「いまごろ? なんで」
「憶測でよろしければ……」
「お願い」
とにかく何が起きているのか把握したい。
「この子はつい最近に製造されたLM型だと思います。素体も見てわかるように幼い少女です。つまり、LM型用の記憶消去と改ざんを行った場合に、元の記憶の積み重ねが著しく少ないと思われます」
「うん。続けて」
「LM型が拒否反応で発狂する理由は、作られた記憶と消し残しの記憶の照合の結果ですから、サンプル数が少なければ少ないほどエラーが出ない、ということではないかと」
えーっと、つまりこういうことか。
「勇者と自覚させておいた方が高い性能を発揮できるから、記憶が積み重なって自然に発狂するまで使用できればいいや、ってノリで勇者の自覚があるLM型として調整したと?」
「そういうことだと思われます」
はぁ、なるほど。
ちょっとやりすぎじゃないかな、これは。
「……あまりにも趣味が悪すぎますわね、フリート公」
ラウラも静かに怒りをたたえている。
くっそ。
「お願い答えて。キミたち二人はどこからきたの? こんなことしたやつらをぶっ飛ばしてやるから、お願い教えて」
大暴れの最中に覆面は外れてしまっていた。
思った通り、まだあどけない顔をした普通の少女の顔だ。
きっと、笑っていれば花のように美しくかわいらしい少女だったに違いない。
それが、激しい苦しみに歪んでいる。
子供の悶え苦しむ姿なんて、およそこの世界で見たくないものの最上位の一つに位置づけられるものだろう。
でも、聞かなきゃ。
「お願い。少しでも何か教えて」
皮肉なことに、こんな時にも、魔王の強制力は発揮されるらしい。
「あああがあ……ふた、ふたりじゃない」
「え? なに?」
「さんに……」
そこまで言いかけて、糸が切れた人形のようにLM12-Kは動きを止めた。
限界を超えて機能を停止したようだ。
ボクは、力を失った少女の体を、そっと道ばたに横たえた。
「エーレン、だいじょうぶかしら?」
「うん……それよりいまは」
「奥様。三人と言っていましたか?」
うん、まずい。ギデオンがあぶない。
「行くよ、合流しなきゃ」




